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透析室ニュース
第86号「今年の猛暑、フレイルに注意しましょう!」-令和6年8月12日発行-
「酷暑」
理事長 溝渕正行
パリではこの約3週間、暑い熱いスポーツの祭典であるオリンピックが開催されました。日本代表の選手達が目を見張るような活躍をされ、数多くのメダルを獲得されました。一方国内では、毎日気温40℃に迫る猛暑を通り越した酷暑が続いています。このため熱中症が多発し亡くなられる方も多くなっています。
更に今年の5月連休明けよりジリジリと数を増やしていた新型コロナウイルス感染が猛威をふるっていて、クラスター発生危険度にまで迫ってきています。今後夏休み、盆休みなど人々の移動が増加するため更なる感染拡大が予想されます。どうか皆さん、今一度基本的な感染予防対策(マスクの着用、密を避ける、換気をする、うがい手洗いをする)に努めてください。
この異常な暑さのための食欲低下と、それによる栄養障害などで体力が非常に低下しやすくなっています。どうか涼しいところに居て少しずつ動き、適度なたんぱく質と糖質を摂取して、しっかりと栄養を身につけて、体力の消耗を防いでください。
今年の猛暑、フレイルに注意しましょう!
「フレイル」については、以前の透析室ニュースでも取り上げました。フレイルとは、老化に伴って体や心の働きが弱くなり、さまざまな健康障害に陥りやすい状態のことです。言いかえると、フレイルは、健康な状態と、心身が老い衰えて歩けないなどの要介護状態との中間のことです。
透析患者さんではフレイルの頻度が高く、2~3人に1人はフレイルであるといわれています。特に高齢の透析患者さんでは70%を超える人がフレイルであるとの報告があります。しかし、フレイルは早く対策を行えば元気な状態に戻る可能性があります。
今年の夏は異常な暑さが続いています。夏場にフレイルのリスクが高まるというデータがありますので、今年のような災害級の猛暑では、さらなる注意が必要です。
それは、暑い → 外に出ない → 食欲もない → 低栄養 → 筋力が低下するし、やる気も出ないから弱るという悪循環に陥るからです。この悪循環になるとアッという間にフレイルになってしまいます。かといって無理に外に出るのは危険です。ですから、涼しい部屋でできるだけ体を動かすことを心がけましょう。
低栄養状態とは、体を動かすために必要なエネルギーと、筋肉や骨、免疫物質などを作るたんぱく質が不足した状態です。後に説明させていただく「夏バテの原因と対策」の中でも栄養不足のことを取り上げていますが、栄養不足=低栄養状態と考えてください。この低栄養状態が続くことが、心身の衰えであるフレイルの引き金になります。フレイルになると、さらに活動量が減り食事量も減るという負の悪循環に陥り、感染症の悪化や寝たきりなどの介護状態となることもあります。少しでも長く健康な生活を続けるためには、この悪循環を断つことが大事です。フレイルになったとしても、この悪循環を断ち切れば元の健康な生活に戻ることも可能です。
低栄養の分かりやすい指標となるのが、血液検査のアルブミン値です。アルブミンは、100種類以上あると言われる血液中のたんぱくで最も多い量を占めている重要なたんぱくです。アルブミン値は約3週間前の栄養状態を反映し、さらに値の変動が穏やかなため長期の栄養状態も反映するとされています。
定期検査の後、皆様にお渡ししている検査結果(体調の評価)にも毎回載せています。3.6g/dl以上が目標値です。3.5g/dlより低いと低栄養の可能性があります。
アルブミンが低下したからといって、すぐに症状が現れるわけではありません。しかし、透析患者さんの血清アルブミン値が低いほど、死亡の相対的危険度が高い(生命予後が悪い)傾向にあるとのデータがあります。左の図表を参照すると、血清アルブミン値が3.5~4.0g/dlの患者の死亡の相対的危険度を1とした場合、3.0g/dl未満の患者の相対危険度は約39倍にもなります。また、アルブミン値が4 g/dlを超えている人(栄養状態の良い人)は、死亡の相対的危険度が低い、すなわち長生きであることもわかっています。このため、アルブミン値は透析患者さんの栄養状態・健康状態を知るうえで重要な指標となります。
低栄養・フレイルを予防するポイント
① 良質なたんぱく質を摂取しましょう
食事から良質なたんぱく質を摂取することが、アルブミンを上げるポイントになります。ここで重要なのは「良質」ということです。たんぱく質は20種類のアミノ酸から構成されており、そのうちの9種類は必須アミノ酸という人間の体内では合成できないものです。そのため、必須アミノ酸は必ず食事から摂取しなければなりません。そこで、アルブミンを上げるためにも、必須アミノ酸を多く含む良質なたんぱく質を積極的に摂ることが重要です。良質なたんぱく質は、肉・魚・卵・豆・大豆製品などです。
② エネルギーをしっかり摂りましょう
アルブミンを上げるためには、食事でエネルギーをしっかり摂る必要があります。エネルギーが不足すると、活動に必要なエネルギーを補うために体内のたんぱく質を分解してエネルギーを生み出します。つまり、たんぱく質よりもエネルギーが優先されるため、アルブミンも作られなくなってしまうのです。1日3食食べる、おかずだけではなく、ご飯やパン、麺類などの主食を摂取する、適度に脂質を摂るなどを意識し、十分なエネルギーを摂りましょう。
③ 毎日の生活に運動を心がけましょう
「2週間の寝たきりなど、活動しないことで7年間分の筋肉が失われる」 と言われています。その対策には、まず動かない時間を減らすことが重要です。暑くて外に出られなくても、ちょっとした少しの運動でも継続して行うことで筋力の低下を防ぐことができます。筋力の低下を防ぐことで、転倒・骨折で寝たきりになるリスクも軽減されます。
例えば、椅子に座わり足踏み体操、座った状態のまま、足をまっすぐ伸ばす体操(キック体操)、立って(何かに掴まり)かかと上げ下げ体操など無理のない範囲で体を動かしましょう。
夏バテの原因と対策
管理栄養士 高木 麻衣
暑い日が続くと、「だるい」「食欲がない」「寝ても疲れがとれない」といった夏バテの症状が多くみられます。偏った食事をしたり、食事を食べないでいると、必要な栄養素が不足してしまい、体力や抵抗力が低下してしまいます。早めの対策を心掛けましょう。
栄養不足
夏は麺類などの単品料理になりがちですが、単品での摂取だとたんぱく質やビタミンは不足してしまいます。工夫して質の良い食事を摂りましょう。
〈レンジで作れる簡単レシピ:甘辛そぼろ厚揚げ〉
夏場の水分管理
夏場は汗によって多くの水分を失いますが、透析間体重増加量に注意してコントロールしましょう。一度に多くの水分を摂らず、こまめに少しずつ飲みましょう。また氷を時間をかけてなめることもよいです。同じ一口でも、水分なら一瞬でなくなりますが、氷は溶けるまで時間がかかります。ただし、食べすぎには注意しましょう。
〈水分を摂るときのポイント〉
〇 汗をかいていないとき
体からナトリウムが失われていないので、水かお茶(麦茶)を選ぶとよいでしょう。
〇 汗をかいたとき
汗を多くかいたときは体からナトリウムなどの電解質も失われているので、スポーツドリンクを少しずつ飲むとよいでしょう。しかし、スポーツドリンクは糖分、塩分、カリウム等が含まれているので、飲みすぎには注意しましょう。ご不明な点がございましたら管理栄養士までご相談ください。