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「厳 冬」

理事長  溝渕 正行

皆様、遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

令和6年の年頭は国内におきましては、能登半島地震による災害と厳しい予想外の寒さに襲われて非常に辛いスタートとなりました。国内では、依然としてインフルエンザや新型コロナウイルス感染が減少することなく静かな流行を続けています。どうかマスクの着用、手洗い、咳エチケット、換気の実施など感染症対策を引き続き徹底してください。

今回の透析室ニュースでは、上記のような国内事情を考慮し、災害の発生しやすい日本に住んでいる私達がいかにして災害に対して準備をしていかなければならないかを栄養学的な面から見直すこととしました(当然、透析治療を受けているという立場から考えてということになります)。日頃からどのような物をどの程度の量、どのような理由から用意をしたら良いかを説明させていただきます。

そしてまた災害時には当然低栄養になりますが、災害時でなくても低栄養になる場合が多々ありまして、この低栄養が危険で、いかに元気で長生きするための妨げになるかということを今一度思い出していただきたいと思います。1日3回の食事(エネルギーと栄養)をしっかり摂ることが、元気で長生きをするための根本的な源となることの理由をしっかりとご理解いただければ幸いです。

今回は年頭の恒例となりましたクロスワードクイズがあり、素晴らしい景品を用意させていただきますので奮ってご応募ください。

 

透析患者さんの低栄養について

昨年初めの透析室ニュース81号で、「元気で長生きするための4つのポイント」について説明しました。元気で長生きするためのポイントはいろいろありますが、特に重要な4つに絞りました。もう一度まとめると「しっかり食べる、しっかり透析する、しっかり動く、感染に気をつける」の4つです。その4つの内1番重要なのは、やはり「しっかり食べること」です。しっかり食べて栄養(特にエネルギーとたんぱく質)を十分とっていないと、しっかり動くことも、しっかり透析を受けることもできません。また、感染症に対する抵抗力も低下してしまいます。このようなことから、透析患者さんでは、特に栄養状態によって生命予後(長生きできるかどうか)が大きく変わってきますし、低栄養(栄養失調)では、決して長生きできません。また、低栄養は「痩せ(やせ)」を引き起こし、サルコペニア(筋力低下)・フレイル(心身の虚弱)となり、生命予後を悪化させます。透析患者さんにとって「痩せ(やせ)」は重大な危険因子です。

透析患者さんが痩せる原因はいろいろありますが、やはり一番の要因は必要な食事(たんぱく・炭水化物等)が十分摂取できていないということです。食事は3食しっかり食べることが重要です。しかし、透析日に昼食を食べないで、透析が終わって家に帰ってからだと14時か15時の食事になります。その時間に食べると、夕飯を食べない患者さんも多数いらっしゃると思います。また、透析が終わり帰宅すると疲れて寝てしまい、夕方や夜に起きて夕食をとる方もいらっしゃるでしょう。結局、非透析日は3食食べていても、透析日は1日2食ということになります。

さらに、問題なのは、透析をすることによって様々な尿毒素を抜くと同時に、体に必要なたんぱく質やアミノ酸、ビタミン類などもある程度抜けてしまっているということです。透析(人工腎臓)は、人間の腎臓と違って体に悪いものと良いものを区別することはできません。だから、透析中あるいは透析直後に食事で補給する必要があります。だから、透析をするだけで食事を十分にしないと、徐々に痩せていきます。コロナ禍で外来透析食が中止になった時は、前述した通り透析日は1日2食(あるいは3食でも量がかなり少ない)患者さんが多くいたと思います。

 

四国透析療法研究会において、当院看護師が外来透析食が中止になった期間中、患者さんの体重(体格)や栄養指標がどのように変化したかをテーマにして研究発表を行いました。透析患者さんの栄養管理は現在の透析療法における重要な課題ということもあり、優れた発表に与えられる「学術奨励賞」という大きな賞をいただきました。

この研究結果においても、「食事量が少ない日が週3日あるということが長期化すると、エネルギー不足による体重減少とさまざまな栄養指標が低下し、低栄養リスクが高くなる」ということが明らかとなりました。

 

第57回 四国透析療法研究会  2023年9月17日

 

演題 「コロナ禍での外来透析食中止に伴う栄養指標の変化」

 

 

 

 

 

当院では、昨年の5月から外来透析食の提供を再開しました。

物価上昇もあり経営的には厳しいため食事を提供していない透析施設が多いのが現状ですが、当院では透析患者さんの低栄養防止の重要さを考え再開しました。管理栄養士をはじめとした栄養部門のスタッフが、内容や盛り付けにも工夫し、季節を味わっていただくための行事食も多く取り入れて、食べることを楽しんでいただけるように心を込めてつくっています。食事をとられている患者さんからは「とてもおいしい」と大変好評をいただいています。

透析食をとられていない方は、週3日食事量が少なくなることで短期的には何も変化がないように感じるかもしれませんが、長期的な目で見ると必ず痩せていきます。ぜひ、透析中あるいは透析後に食事をしてエネルギーとたんぱく質を補給してください。そして、何よりおいしい食事を楽しんでください。

 

災害に備えて

管理栄養士  飛鷹 佳枝

災害時は、透析が十分にできないこともあります。救援物資は透析食に考慮されていません。また、救援物資が行き渡るのに災害発生から3日かかるとも言われています。非常食はできれば7日分(少なくとも3日分)は用意しておきましょう。日常使える食品を少し多く備蓄して、使いながら補充すると効率的です。災害により物流や食品工場の機能が停止すると食料が手に入りづらくなります。買い物には長蛇の列ができてしまいます。水と食料をしっかり備蓄しておきましょう。食事の注意点を知り、自分自身で選んで考えて食べることができるようにしておくことがとても大事です。

災害時に食事で気をつけること(透析が十分にできないことを想定して)

 

エネルギー確保はしっかりと

エネルギーが不足すると体の筋肉が分解され、尿毒症や高カリウム血症になり危険です。白いご飯、パン、ビスケットなどで確保しましょう。

 

カリウムを控えましょう

とりすぎると高カリウム血症によって心臓が止まってしまうことがあります。生野菜、いも、果物、海藻、豆製品、ナッツ類は控えましょう。

 

たんぱく質を控えましょう

体に溜まる老廃物を最低限の量におさえましょう。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品を控えましょう。

 

塩分を控えましょう

のどが渇いてしまうので通常よりグッと少なく、とりすぎないようにしましょう。水分はとりすぎも、我慢しすぎもよくありませんとりすぎると心不全をおこす危険性があります。少なすぎると脱水症状を起こします。

1日当たり300~400ml+尿量 を目安に、夏場は発汗量も考慮しましょう。

*一番注意しないといけないのが、高カリウム血症です。災害時に備えて、カリウムの薬(カリメート、ロケルマ、ポリスチレンスルホン酸Ca など)の予備を持っておいてください。

高カリウム血症の症状

脱力感 ・くちびるのしびれ ・手足のしびれ、麻痺 ・胸が苦しい ・不整脈

 

自宅に備えておくとよい食品

 

     水(必須)飲料、調理用として、2リットル×3日以上

    そのままで食べられるもの

   

・缶切りのいらないプルトップ缶が望ましい

・食塩相当量表示を確認

・缶詰の味が濃い場合、水気をしっかり切って

水を入れ、洗って食べるとよい

 

    お湯や温めが必要なもの

    簡単な調理が必要なもの

   治療用特殊食品(低たんぱく質、低カリウム、高エネルギーに調整された腎臓病用食品)

・レトルト食品は、買い物や料理ができないときに活用

・栄養補助食品は食欲不振時の栄養補給に使用

*特殊食品については栄養士までご相談ください

これらを参考に、日常使える食品を少し多く購入しておき、使ったら買い足す方法

 

(ローリングストック)で備蓄しておくとよいでしょう。