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「初 冬」

いよいよ今年も残り一ヶ月足らずとなり,暖かい日はあまりなく,随分寒さが強くなってまいりましたが,皆さん,体調はいかがでしょうか。寒くなると風邪,インフルエンザ,感染性胃腸炎などの感染症が流行しやすくなる時期ですので体力をつけて健康には充分注意をしてください。この年末は昨年同様,新型コロナウイルス感染が多く第8波を迎えています。いずれの感染症もこれまで御紹介させていただき続けてまいりました感染症対策の基本原則,①三密を防ぐ,②マスクの着用を守る,③手指の消毒をする,などをしっかり守っていただき撃退して年の瀬を乗り切ってください。

そこで今回の透析室ニュースでは,最初に体力をつけるという意味から「フレイル」という言葉の意味とその対策について考えてみたいと思います。本文でも紹介させていただきますがフレイルとは,加齢や病気に伴うさまざまな身体の働きの変化や,体力的予備能力の低下によって発生する健康障害に対する危険性が増大した状態であります。

フレイルの大きな原因の一つであるエネルギー不足をどうやって解消したらよいかについてのお話をさせていただきます。次いで最近になって透析を受けておられる方に多い「足の引きつり(筋ケイレン)」について,何故起こりやすいのか,またどうやって防いだらよいのかなどについて説明をさせていただきたいと思います。しっかり読んでいただき「引きつり」と「フレイル」を予防し,健康維持ができますように願っています。

 

理事長 溝渕 正行

 

フレイルを予防するために

最近よく耳にする「フレイル」は、慢性腎臓病の患者様に非常に多く見られます。食事制限や、活動性の低下により、透析患者様は非常にフレイルになりやすい状態と言えます。

フレイルとは、老化に伴って身体や心の機能が低下することにより、様々な健康障害に陥りやすい状態のことです。フレイルは、早期に機能低下の状態を発見し、食事の改善、身体活動や社会活動の機会を増やすなど、適切な介入・支援でその進行を防ぐことができ、健康な状態に戻ることができます。要介護状態へと近づいた場合も、個々の状態に合った適切な介入でハイリスク状態を回避することが可能です。

 

 

最近このような症状は見られませんか?

・       活動量の低下   → 横になることが多くなったと感じる

・       身体機能の低下  → 歩く速さが遅くなったと感じる

・       体重減少     → 体重が減ったと感じる

・       筋力の低下    → ペットボトルのふたが開けられない

・       疲労感      → 疲れやすい

        +

・       社会的要因    → 孤立、孤独、引きこもり、経済力の低下

・       精神・心理的要因 → 気力の低下、うつ、記憶力の低下

 

年齢とともに食事量が減ってくると、必要なエネルギーやたんぱく質、その他の栄養素が足りなくなり、その状態が続くと、体重が減り、筋肉量も減少してしまいます。栄養素の不足が要因のひとつとなり、活動量や身体機能の低下につながることがあるのです。食生活や、身体活動、社会とのかかわりなど、自分の状態を振り返る時間をつくり、フレイル予防に取り組んでみましょう。

 

~フレイルを予防する食事のポイント~

 

必要なエネルギーを十分に摂りましょう

体に必要なエネルギーが足りていなければ、筋肉量・体脂肪量の減少、つまり体重(ドライウェイト)の減少につながります。これを予防するためには,1日3食食べる、おかずだけではなく、ご飯やパン、麺類などの主食を摂取する適度に脂質を摂るなどを意識し、十分なエネルギーを摂りましょう。

 

適量のたんぱく質を摂取しましょう

加齢に伴い筋肉となるたんぱく質の合成は低下します。そのため、高齢者は、たんぱく質の摂取量が少なくならないように気を配る必要があります。たんぱく質を効率よく補うためには、3食に分けてバランスよくたんぱく質を摂取する、たんぱく質の質に配慮し、良質なたんぱく質を摂取するなどを意識しましょう。(※良質なたんぱく質とは…肉・魚・卵・大豆製品など

 

基本はバランスのよい食事を継続することです

主食でエネルギーを摂り、主菜でしっかりとたんぱく質やビタミンを摂り、副菜でビタミンやミネラルを摂る、といった食事スタイルを目指しましょう。塩分に注意は必要ですが、お惣菜を活用しても大丈夫です。いろいろな食品を組み合わせることで、必要なエネルギーや栄養素の摂取がしやすくなります。

管理栄養士 神原 華奈

 

 

透析中の足のつり(筋肉のけいれん)について ~透析とカルニチン~

透析中の合併症のなかでも特に多くみられるのが”足のつり”で、透析患者さんの5~20%に起こるといわれています。足のつり(こむら返り)は,足の筋肉が強く収縮して痛みを生じる状態です。特に,透析の後半によく起きます。

透析中に足がつる主な原因としては,

ドライウエイト(基礎体重)の設定が厳しすぎたり,体重(水分)が増え過ぎて,急速あるいは過剰な除水により,血圧低下や下肢の血流不足が起き,筋肉が脱水と酸素不足になる

②ナトリウム,カルシウム,マグネシウムなどの値が低い,あるいは透析によりそれら電解質の血中濃度が急激に変化する

栄養素のひとつであるカルニチンが欠乏している

などが挙げられます。

原因の①については,皆様も日頃実感していると思います。除水が多いほど,透析中足がつりやすくなるのは確かです。これについては,除水量が多くならないように毎日の食事で塩分や水分を摂り過ぎないように気をつけていただくしかありません

ドライウエイト(基礎体重)が適切かどうかは医師が検討します。必要ならばドライウエイトを上げます。

 

今回は,③にあります「カルニチンの欠乏」についてもう少し詳しく説明したいと思います。

 

カルニチンとは?

カルニチンは、筋肉を動かすエネルギーをつくるために、必要不可欠な栄養素です。細胞内では、脂肪酸がミトコンドリア内で燃えてエネルギーに変わります。しかし、脂肪酸は単独ではミトコンドリア内に入ることができません。カルニチンが脂肪酸と結びつき、ミトコンドリア内に脂肪酸を運ぶ重要な役割を担っています。簡単にいうと,カルニチンは脂肪酸の「運び屋」として活躍しているのです。

〔※脂肪酸とは,脂肪(脂質)の主要な成分です。〕

 

それでは,透析患者さんではなぜカルニチンが欠乏してしまうのでしょうか?

その原因としては次の3つがあげられます。

 

腎臓の機能の低下により,腎臓でカルニチンがつくられにくくなる。

1回の透析によって,血液中のカルニチンの70~80%が除去されてしまう。

③ 食事制限によって,食品から十分なカルニチンを摂取することができない。

このような原因により,体内のカルニチンはどんどん少なくなってしまうのです。

 

カルニチンが欠乏すると,十分なエネルギーがつくられず,また有害な物質が増えてしまうため,足がつってしまうと考えられます。また,筋肉の痛み,筋力低下,倦怠感にもカルニチンの欠乏が関係していると考えられています。

さらには,貧血,心筋障害による不整脈や心不全、低血糖、脂肪肝にもカルニチンの欠乏が関係していることがあるといわれています。

このようなことから,当院では半年に1回,血液中のカルニチン濃度を測定し,欠乏している場合あるいは欠乏する可能性が極めて高いと判断された場合は,注射によるカルニチンの補充を行っています。

透析中に足がつった時は,速やかにスタッフへ報告してください。必要に応じて適切な処置を行います。具体的には除水を止めて,体調を確認し,補液をする,筋肉を伸ばす,筋肉を温めるなどを行います。また,芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)という漢方薬が効果ががあります。

足のつりの原因はさまざまです。足がつる時の状況や症状の程度などを医師やスタッフに説明し、有効な予防・改善方法を相談しながらみつけていきましょう。