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「初夏」

5月に入り周囲の草木も鮮やかな緑色となり,法皇山脈も日増しに緑色が濃くなってきました。一年中で最も快適な季節となりました。国内ではインフルエンザの流行もほぼ終焉を迎え,感染性胃腸炎も発症はきわめて少なくなってきています。皆さん,体調はいかがでしょうか。今こそ適度な運動を心がけ食事面に気をつけて体調維持に努めて下さい。
政治面では,まさに近日中に米朝首脳会談が行われようとしていますが,果たして北朝鮮は本当に核を完全に廃棄する覚悟があるのでしょうか。それとも歴史は繰り返されて会談は破綻するのでしょうか。拉致問題はどうなるのでしょうか。なかなか目が離せないところですね。
話は変わりますが,今年の4月から透析の診療報酬が更に大幅に下がることとなりました。国はこれ以上透析医療費の総額を増やさないという姿勢です。今の透析医療のレベルをこのまま続けていくためにはこの問題を真剣に考えていかなければいけないようです。そのためにも自己管理をしっかりしていただいて不要な薬は減らし体調良好になるように努めていただきたいものです。さもないと透析医療費の一部負担などという制度への変更が導入されかねません。
先立って3月25日に開催されました三島クリニック講演会におきましては,日本の透析医療を牽引し続けてこられました椿原美治先生より大変分かりやすく,またためになる最近の情報が豊富に含まれた御講演がございました。内容は皆様方が今知りたい透析効率の問題,水分やリンの上手な管理とその意味,蛋白質のとり方,筋肉を鍛える必要性などでした。今回の透析室ニュースでは椿原先生の御講演の内容についてお知らせしますので,繰り返し読んで大いに参考にして下さい。

理事長 溝渕 正行

 

第17回三島クリニック講演会

演題名 「元気で長生き透析ライフ!  食事療法が原点! ~栄養保持とリン制限~」
講師  滋慶医療科学大学院大学 教授 椿原 美治先生 

【講演要旨】

腎臓は体液量とミネラル(Na,K,Ca,Mgなど)の濃度を一定になるように管理しています。ですから,腎機能が低下してきたら経口摂取量を調節(口養生)しないといけなくなります。さらに腎機能が低下してきたら透析が必要になりますが,透析は通常1回4時間で週3回しかしませんから,24時間年中無休で働いている腎臓の1割にも足らない働きしかできません。というわけで,「透析を始めても食事療法(口養生)は絶対必要!」ということになります。

今日は原点に返って話を聞いていただきたいと思います。
1971年の調査では,15~45歳で慢性糸球体腎炎から透析になった患者さんの5年生存率は0%でした。これは,経済的理由や未熟な透析医療を苦にして自殺する患者が多かったためです。1972年に透析医療が更生医療に認定され,透析クリニックの増加,透析技術の向上により1976年の調査では,5年生存率が53.1%に上昇していました。さらに,1983年からは日本透析医学会の統計調査が始まり,その年に導入した患者の5年生存率は92.9%となり,ほとんど死なないようになってきています。

日本透析医学会の統計調査によると,現在の日本の透析患者数は33万人で,そのうち10%が入院,20年以上の透析患者数は8.3%,75歳以上の患者数が33.1%(3人に1人),最長透析歴の患者は48年4ヶ月となっています。確かに“腎臓は寿命を決める”重要な臓器ですが,食事療法さえしっかり守る努力をすれば50年近く生きられるということです。

新規導入の主要疾患では,1983年の統計調査開始時では慢性糸球体腎炎が60%を占めていましたが,2014年には14.2%と割合も低下しました。一方,糖尿病性腎症患者が急増しましたが,最近やや減少に転じてきて43.5%となっています。高血圧性腎硬化症が14.2%,不明が11.3%と徐々に増加してきています。
これに関して,糖尿とか血圧が管理不十分で透析になったということは「透析患者の多くは生活習慣病のなれの果て!」と考える人もいて,「自業自得の透析患者が日本の健康保険料を食いつぶしている」と主張した人さえいます。

日本では,どんな人であろうと透析が必要な人には透析をします。国民医療費は平成22年度37兆4千億円,平成24年39兆2千億円と毎年1兆円増加しています。そのうち透析医療費が1兆6千億円で,これ以上透析医療費を増額できるわけがありません。今年の4月から透析の診療報酬がさらに下がります。今の透析患者さんは,「ほとんど全ての費用は,税金で支払われて生き長らえさせてもらえている」ということを今一度思い返していただきたいと思います。
また、送迎をしている透析施設が全施設の54.6%と半数以上ありますが、送迎をしている施設の本音としては8割近くの施設が「負担である」と考えています。他の病気で送迎をしてくれるということはありませんから、そういう現状も知っておいてください。

透析の量と質の確保と合併症対策ということについては、まず透析患者さん自身も投薬内容や検査データの変動を知ることが最低条件です。さらにガイドラインなどを読み、講演会などに参加して勉強することも必要です。また、「おのれの体は自分で守る!」という気概が必要です。わからないことがあったらスタッフに質問すればいいです。そうすればスタッフも勉強します。

透析時間が減れば喜ぶ患者さんもいるかもしれませんが、透析時間を減らせば早く死にます。「短時間透析はなぜいけないか」というと、毒素は、細胞内→血液→透析液と移動して抜けるわけですが、特に細胞内から血液へ移動するのはゆっくりで短時間では体中の毒素は抜けないからです。透析でちゃんと毒素を抜くためには時間が重要なのです。
米国の1年粗死亡率は,日本が9.1%であるのに対して24%以上(約30%)と非常に高いのは、透析時間が短いことが原因です。ほとんどの患者が3時間透析で4時間半以上する人はほとんどいません。

透析がどれくらいできているかを考えるうえで、透析量(Kt/V)という指標があります。Kは透析器の面積や血流による効率、tは時間、Vは体液量(体の水分量)を表しています。そして効率であるKと時間tを掛け合わせたものをその患者さんの体液量で割った値を透析量としてみるものです。同じ透析量(Kt/V)でも米国は血流500ml/minを取るなどしてKを上げることに専念し、日本はt(時間)を長くすることで同じ透析量を維持しています。確かに血流を多くして短時間透析をしても、血流は200~250ml/minで長時間(4時間~5時間)しても、血液で調べる検査結果に見た目上の違いはないかもしれません。しかし、短時間では細胞の中の毒素は抜けていません。そのため生存率が低くなるのです。

透析患者さんが元気で長生きをするためには、患者さんがメインとなって医療側との共同作業が必須です。そして、何より患者さん自身が透析治療に参加し、守るべきことを守ってもらわないとどうしようもありません。

日本透析医学会ガイドラインでは、「透析患者の体液管理は重要で、最大透析間隔日の体重増加を6%未満にすることが望ましい。」となっていますが,できれば5%未満とするのがより望ましいです。体重増加の原因は水の飲み過ぎではなく、塩分の摂り過ぎです。塩8g食べたら必ず1kg増えます。3kg体重が増える場合は必ず24gの塩を食べています。
体重増加は中2日の時、ドライウェイトの5%以内、中1日の時3%以内が原則です。この体重の波が大きいほど心臓や血管に負担となり長生きできません。

血液中のリンが高いとCaと結合し、骨以外の血管や関節などに石灰化が生じ、動脈硬化や関節痛を起こすと同時に,PTH(副甲状腺ホルモン)やFGF-23の分泌を促します。
FGF-23が多くなると心不全になりますし,PTHが過剰に分泌されると骨が溶けてボロボロになるだけでなく大動脈などの血管が骨になり、心血管病の原因となります。

血清リン濃度は6を超えると死亡リスクが高くなります。逆に低すぎても死亡リスクが高くなります。これは、食事でタンパク質があまり摂れていなくてリンが低くなっているためです。この結果から、透析医学会では血清リン値の目標値は3.5~6.0mg/dl、血清Ca値は8.4~10.0mg/dlになっています。

リンは主に結着剤、乳化剤、酸味料、ph調整剤として加工食品に添加物として多く含まれていますが、この添加物のリンは特に体に吸収されやすいリンです。しかし、食品には具体的に使用した添加物名を記載する義務がないので、消費者はリンが使われているか非常にわかりにくくなっています。

リンはタンパク質の豊富な食品に多く含まれていますが、食品によって含まれるリンの割合は違います。リン/タンパク比の低い食品(牛肉、豚肉、鶏肉、ツナなど)を選んで、リンを抑えながらタンパク質を十分に摂りましょう
(インターネットの「すぐわかる栄養成分ナビゲーター・グリコ」というサイトで食品のリン含有量を調べることができます。利用してみて下さい。)

1985年当時(エリスロポエチン製剤の発売される前)の透析患者さんの貧血についてみると平均Ht値24.1%(Hb値で約8g/dl)でした。また、輸血率は非常に高く、この頃の輸血でB型肝炎、C型肝炎に感染する患者が多くいました。このように1990年にエリスロポエチン製剤が市販される前は悲惨な状況でした。
現在、ガイドラインでは、「成人血液透析患者の場合、維持すべき目標Hb値は週初めの採血で10g/dl以上12g/dl未満」となっています。
ダイアライザーの残血や採血によって失われる鉄分は注射で補うことが必要となります。

風邪をひいたりして食欲低下などが続くと見かけ上の体重は同じでも、体が痩せて水に置き換わり体液が過剰になっていることがあります。体液過剰では、心臓が大きくなりやがて心不全になりますし、栄養不良では感染症を起こしやすくなり死の危険性が高くなります。
そのため、栄養不良の対応としては、当面は「リンやカリウムを気にせず、しっかり食べること」が重要です。しっかり食べて元のドライウェイトまで戻す努力が必要です。
透析前アルブミン値が3.5g/dl以下、すなわち栄養状態の悪いほど予後が不良(死亡リスクが高い)であるということも明らかになっています。
BMI(肥満度)については、透析患者さんでは多少肥満傾向なほど予後が良好(死亡リスクが低い)で、BMIが18以下なら死亡リスクが高くなっています。
また、筋肉量が多いほど予後が良好(死亡リスクが低い)であるということも明らかになっています。

サルコペニアとは「筋肉の喪失」という意味の造語で、加齢や疾患(透析など)に伴い筋肉量が減少し、身体機能(歩行や運動機能など)を低下させ、寝たきりや死亡の原因にもなります。このサルコペニアの人が増えています。
サルコペニアかどうかは歩行速度や握力の測定でわかります。歩行速度は信号が変わるまでに横断歩道を渡りきれない(0.8m/秒以下)、握力は男性が25kg未満、女性が20kg未満ならサルコペニアの可能性が高いです。
筋肉はタンパク質を摂って運動しないとつきません。筋トレが大事です。

サルコペニアを通り越すと「フレイル」という状態になります。フレイルは「虚弱」という意味で、高齢になるにつれて筋力が衰えることである「サルコペニア」に加えてさらに生活機能が全般的に低くなることです。
・ドライウェイトの減少 ・易疲労感 ・筋力(握力)の低下 ・歩行スピードの低下
・身体活動性の低下の内、3つ以上当てはまる場合フレイルであるといえます。

フレイルの予防は、
① 十分なエネルギーやタンパク質を食べる。
② ストレッチ、ウォーキングなどを定期的に行なう。
③ 身体の活動量や認知機能を定期的にチェックする。
④ 感染を予防する(ワクチン接種を含む)。
⑤ 手術の後は栄養やリハビリなど適切なケアを受ける。
⑥ 内服薬が多い人(6種類以上)は主治医と相談する。
などです。

元気で長生きするためのコツは、
・十分な透析! ・十分な食事! ・十分な運動!
「自分で治療法を選択し、自分の体は自分で守る!」ということが重要です。