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「初夏」

皆様こんにちは。5月にはもう気温が30度を超えたりして真夏になったのかと間違えるような今日この頃ですが体調はいかがですか。
宇摩地区の感染症をみますと、インフルエンザや感染性胃腸炎がようやく下火となって終焉に向かいつつあるようです。その代わりに咽頭結膜熱(プール熱ともいわれる)が小児や高齢者の間で流行し始めています。引きつづき手洗、うがいなどをしっかり行って予防をして下さい。それと先程も申し上げました通り今年は例年になく異常に気温の高い夏になりそうですので熱中症にならないよう日常生活において細心の注意を払っていただきたいと思います。
前回の初春号を発行しまして今回の発行まで諸般の事情から約半年足らずがあっという間に過ぎ去ってしまいました。お待たせしました。その間、世の中の情勢もずいぶん様変わりしてまいりました。近くでは北朝鮮による相次ぐ核実験や大陸間弾頭弾の発射実験とそれに関連したアメリカの航空母艦の日本海への移動等東アジアの緊張亢進状態、遠くではシリアを中心とした中近東での戦闘状態の継続のニュースなどおぞましい話題ばかりが目立っています。国内では森友問題、加計学園問題など“忖度(そんたく)問題”にゆれていますが、「またか。」と国民には嫌気のさすようなニュースが続いています。
今回の三島クリニック透析室ニュースでは、去る2月12日に開催されました三島クリニック講演会での鈴木一之先生の「長生きするためのしっかり透析」の内容をまとめましたので、もう一度御一読いただきまして皆様方の「透析ライフ」の参考にしていただきたいと思います。

理事長 溝渕 正行

 

第16回三島クリニック講演会

演題名「しっかり透析のヒケツ」
講師  かわせみクリニック  院長 鈴木 一之先生

【講演要旨】

透析療法の目的は、初期には尿毒症の症状を緩和する、尿毒症で患者が死なないようにすることでしたが、現在は一般人と同様の生活の質を保つことができる、一般人と同様の寿命を全うできる、すなわち腎不全患者が元気で長生きできることが透析治療の目的になっています。

元気で長生きするために大切なことは、

【1】透析で体に不要なものをしっかり取り除く
尿毒素を除去/体液の性状の異常を修正
【2】体液量と血圧を適切な範囲に保つ
過剰な水分・塩分を除去/減塩/高血圧管理
【3】十分な食事を摂取し栄養状態をよくする
きちんと食事をして十分な栄養摂取/適度な運動で筋肉量を維持
(4)透析合併症・全身合併症を適切に治療
高血圧、心臓血管病、貧血、腎性骨異栄養症等の透析合併症や糖尿病などを治療  などです。
特に【1】,【2】,【3】を実践することがとても大事です。

 

【1】の尿毒素除去においては、
まず透析状態の評価において「透析量」という言葉がよく使われます。「透析量」は、「どれだけ透析したか」ということが分かる指標で、一回の透析での「透析量」は、「透析効率(K)×透析時間(t)」で表されます。また、「透析量の増加」は、「人工腎臓の腎機能の改善」とほぼ同じ意味になります。
透析量は透析効率と透析時間の掛け算で表されますから、透析時間が長いほど透析量が増加します。「透析量」が多いほど長生きの可能性が高いことが統計調査で明らかになっています。1回透析時間を30分でも延ばすようにしましょう。また、透析時間を長くすることによって除水速度(1時間当たりに除水する量)の低減が可能となり、体液管理でも有利です。
次に、「効率の改善」において血液流量増加は重要です。血液流量を上げることに不安を持っている人も多いですが、現代の血液透析では、血液流量は血圧に影響を与えない、高血液流量でもシャントの流れや心臓の負担は増えないことが明らかになっています。したがって、大きなダイアライザーを使用し血液流量を多くして限られた透析時間を有効活用しましょう。血液流量が多いほど死亡リスクが低くなります。ダイアライザーを大きくしたり血液流量を上げるときは少しずつ身体を慣らしながら上げるのがコツです。
しかし、血液流量を上げ除去性能が高いダイアライザーを使用することによって透析効率を上げても透析時間の短縮はダメです。身体の水分は3つの部屋(血漿・間質液・細胞内液)に分かれていて、尿毒素の移動には時間がかかるため、短時間透析では身体の隅々(細胞内)まで浄化されないからです。

 

【2】の体液量管理について大事なことは、
まず第一に、体液量過剰は、高血圧や心臓血管合併症(心肥大・冠動脈疾患・うっ血性心不全・脳血管障害など)の原因となるので、適切なコントロールをしましょう。心臓血管合併症は透析患者の最大死亡原因です。血圧・体液量管理には、家庭血圧・脈拍の情報は必須です。短期の変動や長期の推移もわかる方法で記録しましょう。
次は、基礎体重(ドライウェイト)は体液量を管理する基本であるため適切に設定しようということです。基礎体重は、体液量が適正範囲で血圧も体調もよい体重で、通常、透析時に除水の目標とされる体重です。体水分が多すぎる症状(むくみ、高血圧、心不全など)も、少なすぎる症状(透析時血圧低下、透析後疲労感、こむら返りなど)もない状態の体重ということになります。
基礎体重を決定する一定の公式はなく、あいまいな部分がありますが、透析生活を通じて、太ったり痩せたり、必ず変動するので適切にこまめに調整することが大切です。

基礎体重の設定が適切でないと、「引きすぎ」で透析時血圧低下が起こります。透析時血圧低下では、気分不良・吐気・嘔吐・筋痙攣・視力障害などの不快な急性の症状だけでなく、バスキュラーアクセスの閉塞・脳梗塞・狭心症や心筋梗塞・不整脈といった重大な合併症を呼ぶ可能性がありますし、生命予後の悪化にもつながります。「引きすぎ」は美徳でなく危険なことなのです。
ですから、「固定観念-自分のベストは○○kgだ」とか、「より多く飲むため」とか「太りたくない・痩せたい」といって、余計に引くのはやめましょう。除水の体重減少と痩せることの違いが分かる患者になってください。
次は、透析間体重増加量を少なくしようということです。透析間体重増加の管理の基本は減塩生活です。栄養障害の原因となるので、食事量を減らしたり、厳しく制限したりしてはいけません。喉が渇く原因は食塩の過剰摂取です。塩分摂取量1日6g以内を目安に減塩して、喉が渇かない体にしましょう。

減塩を成功させるための工夫としては、

◆ 食材選択や調理の際に工夫しよう
□ 素材から調理、素材の持つ味や香りを活かす
□ 麺、パン、加工食品など、製造過程の塩分に注意
□ 香辛料(胡椒、酢、辛子、ワサビなど)や香味野菜(レモン、生姜、ニンニク、ネギなど)を活用
□ 下味に塩を使わず、仕上げ段階や食べる際に調節
□ 熱いものは熱いうち、冷たいものは冷たいうちに

◆ 外食や中食の場合はこうしよう
□ 塩分の多いメニューを知り、取捨選択する
□ 減塩調理を依頼する、または全部食べずに残す
□ スープや麺のつゆの類は「塩水」だと考える
飲みたい気持ちを抑えるためには、減塩がきちんとできているか確認しましょう。そして、日頃使うカップの容量を知るなどして自分の大雑把な水分摂取量を知っておき、「だらだら」や「何となく」など漫然と飲むのではなく、「飲みたいものを中心に飲む」など、飲み方にメリハリをつけて気持ちの満足度を上げましょう。

透析間体重増加量が多いと体液量の変化も大きく、血圧低下などが起きて透析がつらくなりますし、透析間体液量が過剰な状態が続くことと同じであり、高血圧や心臓血管合併症の原因となります。つまり透析間体重増加の管理で「楽な透析」と「合併症予防」が可能となります。
統計調査においても体重増加が多いほど、また除水速度(1時間当たりの除水量)が多いほど死亡危険度が高いことが明らかとなっています。体重増加量の安全範囲は、中一日(平日)で基礎体重の3%以内、中二日(週末)で基礎体重の5%以内、安全な除水速度は10mL/時/kgDW以内(例えばDW50kgの人なら1時間当たり500mL以内)、危険な除水速度は13mL/時/kgDW以上(DW50kgの人なら1時間当たり650mL以上)といわれています。

【3】の良い栄養状態の維持に大事なことは、
栄養障害は、単に「食べないから痩せる」ということだけでなく、動脈硬化・感染症・心不全などの多くの合併症と相互に関連・悪循環する深刻な問題です。そのため、制限を意識しすぎないでしっかり食べ、十分に栄養を摂取しましょう。
透析で抜く量(透析量)で食べられる量が決まります。しっかり透析して余裕をつくり、きちんと栄養を摂取することが大事です。

「栄養管理」で重要なことは、
● しっかり透析して、食べられる体にしましょう。
● よく食べるものや自分の好みのメニューの中身(栄養素や塩分量)を、食品成分表  で学習しましょう。
● 必須アミノ酸を多く含む、肉・魚・卵・乳製品・大豆製品などを十分に摂取しまし   ょう。蛋白質を多くとるとリンが上がりますのでリン吸着剤をうまく使いましょう。
● 熱量不足は痩せの原因になるので、脂質や糖質をうまく使って、カロリーを増やす  工夫をしましょう。
ただし、糖尿病や高脂血症の人は、過剰摂取にも注意しましょう。
● いいデータにしようと定期検査前だけの食事量コントロールは意味がありません。
● まとめ食い、偏食、欠食などを避ける(1日3回きちんと食事をしましょう)。

次に、適度な運動を習慣づけ、積極的に身体を動かし活動的な生活をおくりましょう。そして体力・筋力を維持しましょう。運動(療法)の効果としては、筋肉量の増加・運動能力の改善、脂質代謝の改善(HDL増加・中性脂肪減少)、骨塩量の増加(骨萎縮の予防)、血圧を下げる、精神的・心理的効果、発汗作用の促進などがあります。
非透析日だけの運動でも筋肉量の維持に有効です。透析中にエルゴメーターなどを使って運動する方法もあります。
統計調査においても、血清アルブミン値、%クレアチニン産生速度(筋肉量を反映する)、標準化蛋白異化率(蛋白摂取量を表す)、体格指数(BMI)が高いほど一年相対死亡危険度が下がることが明らかになっています。すなわち、栄養状態は死亡リスクに直結するということです。
ただ、蛋白質の摂りすぎや太りすぎだと死亡危険度がやや高くなりますので、栄養状態が良くてやや小太りくらいがちょうどいいということになります。筋肉も脂肪も透析患者の財産です。基本的に透析患者は長い目で見ると痩せます。十分な栄養摂取で痩せることを防ぎましょう。

透析とうまくつきあうには、その特徴と限界を知り、透析を嫌わず、前向きに透析生活を過ごすことです。また、透析療法の実力を知り、検査データに一喜一憂せず、透析生活で、全体として何が大切かを考えましょう。その答えが「しっかり透析」です。

「しっかり透析」が、元気で長生きするために最も重要で、すべての基本です。
「その日暮らしの透析」でなく、20年後、30年後を考えた透析を受けるということが大事です。

今日お話したことがいくらかでも役に立ち、明日からの治療を変えていただくことができれば幸いです。