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「初春」

皆様新年明けましておめでとうございます。昨年末には冬らしくない暖かい日が続き今年の冬は暖冬になるのかと思ったとたん正月明けより一気に厳しい寒さを迎えています。寒さが厳しくなるとインフルエンザ、感染性胃腸炎(ノロウィルスを含む)、感冒などの冬の感染症が流行する条件が整ってきますので手洗い及びうがいの励行、マスクの着用など感染症の予防に十分気をつけていただきたいと思います。
寒い冬になりますとどなたでも厚着をして、コタツでうたた寝をしてしまったり、空気が乾燥して脱水気味になったりしやすいものです。こういった状況は透析を受けておられる皆様方には大変危険でシャントの不調をきたす原因となりやすいのです。今年の透析室ニュース第1号(通算62号)はこの大切なシャントについてのお話をさせていただくこととしました。シャントについての正しい知識を持っていただき日頃からその管理をしっかり行うための参考にして下さい。またシャントの状態に異常を感じました時には、すぐにスタッフに御相談下さい。異常を早く発見して早く治療すれば大事に至らずに済む場合も多いものです。

理事長 溝渕 正行

 

「シャント」について

今回は透析をするために大切な「シャント」についてお話しします

【血液透析と血流量】

血液透析では,体に溜まった毒素や余分な水分を取り除くことを行っています。そのためには,血管に針を2本刺して,血液を一度,体外に出して,血液浄化器を通し浄化された血液を体内に戻すことを同時に行います。ここで毒素を取り除きしっかりとした十分な透析を行うためには,1分間に200~300ml程度(1分間に牛乳瓶1本分)の比較的多くの血流量が必要になります。血流量が少ないと透析効率が低下するほか,除水も十分に行うことができなくなります。

【血管について】

血管には「動脈(どうみゃく)」と「静脈(じょうみゃく)」という2種類があります。「動脈」は心臓のポンプの力によって,血液を全身に送る血管です。従って針を刺せば,十分な血流を確保することができますが,動脈は皮膚から深いところにあり,針を刺すことも,血を止めることも難しく,週3回の透析のたびに動脈に針を刺すことはできません。
「静脈」は血液が全身から心臓に戻っていく血管をいいます。採血などを行う血管(皮膚に浮き出ているような血管)はすべて「静脈」です。この「静脈」は「動脈」と比べ,皮膚から浅い所にあり,針を刺すことが容易ですが,通常の「静脈」には血液透析に必要な血流量が流れておらず,よい透析に必要な十分な血流量を確保することができません。そこで必要となってくるのが「内シャント」と呼ばれる血管です。

【シャント血管について】

シャントとは「動脈」の血管と「静脈」の血管を吻合(ふんごう=つなぎ合わせ)して動脈血を毛細血管を通ることなく静脈に流すバイパスのことをいい,シャントを作製するには手術が必要になります。シャントによって「動脈」から表在の「静脈」へ,1分間に500~1000ml程度の多くの血液が流れ込むようになり,「静脈」に針を刺して十分な血流量を得ることが可能になります。
このようにシャントは血液透析を行うためになくてはならない非常に大切なものなのです。

【シャントのトラブル 狭窄? シャントが詰まる?】

残念ながらシャントは長い間何も問題がない人もいれば,短い間の内に血流が悪くなり,シャントが詰まってしまうことがあります。シャントの調子が悪くなる原因はいくつかあります。何故でしょうか?本来「表在の静脈に動脈血が流れること」は不自然な事です。「動脈」の力強い血流が流れ込んでいる「静脈」がその血流に耐えるため血管の壁が分厚くなり血管の中が狭くなってきます。これを「狭窄(きょうさく)」と言いますが,この「狭窄」によってシャント血管内の血流が悪くなり,そのまま放置すれば最悪の場合血管が詰まってしまうことがあります。この「狭窄」の進行は人それぞれですが,大なり小なりすべての人で「狭窄」は進行していきます。従ってシャント血管には自己血管,人工血管であろうが寿命があると心得るべきです。

【シャントの検査】

シャントは透析を行うために必要不可欠なもので,安定した透析を行うためには,シャントが正常でなくてはいけません。そのため日頃からのシャント管理が非常に重要です。調べるためには従来「シャント造影」といい,血管に直接造影剤を注入しレントゲン写真をとる方法しかありませんでした。しかしシャントの血流はどのぐらいなのか?血管が細くなっていないか?などを調べるために当院ではH26年4月より超音波検査でシャントの検査を行っています。当院ではこの検査のことを「シャントエコー」と呼んでいますが,「エコー」とは超音波のことを言います。

【シャントエコー】

シャントエコーでは血流量の測定と動脈,静脈の両方の血管の狭い所を発見し,血管がどのように走っているかを検査しています。検査時間は30分程で痛みもなく,超音波を使っていますので造影剤を使用する検査とは違い非侵襲的で体に害はありません。
写真にあるプローブと言われるものを血管に当てると血流量や血管の状態を観察することができます。このシャントエコー検査の結果、血管が細くなり血流量が著しく低下しており,脱血不良,狭窄音が著明,シャント音が弱いなどの症状がある場合には治療が必要となります。

【シャントの治療】

シャントの治療には大きく2つあります。1つはカテーテルによって狭窄部(せまくなったところ)を広げる内科的治療。もう1つは再手術などの外科的治療によって新たにシャントを作製することです。

【カテーテルによる治療】

カテーテルによる治療では,管の先端が風船のように膨らむ細い管を血管から入れて血管が細くなっている所を膨らませて広げます。細くなっている所が拡張されると血液はスムーズに流れるようになり,シャントは正常な状態になります。
カテーテルの治療はおよそ30分程度で終わり,1日入院か日帰りで治療が受けられます。またカテーテル治療では造影剤と言われる薬を使用し血管をレントゲンで撮影しながら治療を行います。(造影剤アレルギーなどがある患者さんの場合には超音波(エコー)下での治療をするケースもあります。)
“このカテーテルによる治療のことを略語で「PTA」とか「シャントPTA」といいます”

【シャントの手術】

先ほどお話したカテーテル治療ですが中にはカテーテル治療では狭い部分が非常に硬く拡がらない,ワイヤーという細い管が通過しない,もしくはカテーテル治療をしても3カ月もたない場合など治療が難しい場合もあります。このような場合シャントを作り直す,すなわち再手術が必要になります。初回のシャント手術や再手術の場合にも当院では術前に徹底した超音波精査により全ての動脈,静脈を含めた血管精査を行い,vein mapping “血管の地図” を作成し,その結果に基づいて手術を行います。またシャントの手術時間は1~2時間程度で術後数日間の入院が必要になります。(手術の時間や入院期間は個々の血管の状態や術後の状況によります)

【まとめ】

シャントは透析をするために必要不可欠なものです。そして透析に必要な血流を確保するためには十分な血液が流れているシャントが必要になります。しかし血管の壁が分厚くなって血管の中は狭くなり血流が悪くなります。
そこで当院においては、シャントエコーによってより詳細にその状況を把握し「狭窄の診断とシャントPTAの時期の決定」,「閉塞の出来る限りの予防」をすることができます。シャントエコーを元にどのような治療が必要なのか,またその先の解決策を判断することができます。

【自己管理の大切さ】

以上述べましたようにシャント血管は透析患者にとって大切な血管です。患者さん御自身でもシャントに触れて触診する事が出来ます。耳にあてれば聴診もできます。「シャントは自分で守る」 ことが大切であり,日常的に自己管理する習慣を持ちましょう。異常に気が付けばすぐにスタッフに相談して下さい。それがシャントを長持ちさせる秘訣です。