ブログ

「師走~冬至」

皆様体調はいかがですか?「今年はエルニーニョ現象の年で暖冬になる」との予報が気象庁からあらかじめ出ていましたが、実際には季節外れの暖冬?といった日があったり厳しい寒い日であったりをくり返している今日この頃です。こうして寒暖の差が大きくなっていますのでどうか風邪など引かないように御用心下さい。12月22日は冬至となり1年中で一番昼が短い日となります。この時期日本では昔からカボチャを食べたり柚子湯に入って風邪を引かないようにするなどといわれています。カボチャには体内でビタミンに変化するカロテンがたっぷり含まれていますし、柚子にはビタミンCがたくさん含まれているので免疫力が強くなるという理由からなのでしょうか。
ところで今年6月より三島クリニックでは副院長が着任し積極的にシャント手術、PTAなどに取り組み早速大きな成果がでてきています。シャントエコーなどと併せて皆様方のシャント管理がより良いものとなるはずですので御期待下さい。
今回の透析室ニュースでは皆様方が長生きをするために感染症の予防と並んでいやあるいはそれ以上に重要な身体の強さ(筋肉,骨を含めた)のことについてのお話をさせていただきます。つまり「サルコペニア」「フレイル」という事についてふれてみたいと思いますのでその意味を十分理解いただき大いに参考にして丈夫な身体、強い身体をつくって長生きをして下さい。

理事長 溝渕 正行

 

ごあいさつ

副院長 溝渕 剛士

平成27年6月21日付けで、三島外科胃腸クリニック副院長に就任しました溝渕剛士と
申します。私は大学卒業後、循環器内科・腎臓内科と透析・またシャント血管の治療を中心に一般内科診療を行ってまいりました。
透析療法が進歩した現在、透析治療を受けるようになっても人生の質(Q.O.L)を保ちながら快適な生活を送ることが出来ます。しかしそのためには患者様また御家族様にも正しい透析に関する知識を理解していただき、個人個人に合った透析療法を受けていただく必要があるのではないかと思っています。このため日々の透析の回診時に少しでもコミュニケーションを図りながら透析また病気を理解していただくよう心がけております。
また透析患者様の命綱でもありますシャント血管につきましては、これまでの徹底したシャントの超音波検査による管理に加え、外科的・内科的なシャント血管治療も徐々に当院にて開始しております。今後私は腎臓専門医・透析専門医として、院長と共に皆様方の当院での透析生活が安心して快適なものになりますよう精一杯お手伝いさせていただきますので何卒宜しくお願い致します。

 

第14回三島クリニック講演会

演題 「お達者にすごすためのコツ ~栄養と運動の重要性~」
講師 浜松医科大学医学部附属病院 血液浄化療法部 病院教授 加藤 明彦 先生

フレイルとサルコペニア

平成22年「国民生活基礎調査」(厚生労働省)による「要介護の原因」をみてみますと、原因の1位は男性では「脳卒中」、女性では「認知症」、2位は男性では「認知症」、女性では「脳卒中」、3位は男女とも「高齢による衰弱」です。この「高齢による衰弱」のことは「フレイル」という言葉で呼ばれるようになっています。フレイルはどういう状態を意味するかというと、転倒・骨折といった身体的なことをはじめ、精神・心理的、社会的問題まで含めて病気になりやすい状態のことです。
フレイルの根幹にあるのは筋肉量の減少です。この筋肉量の減少、筋力の低下する現象を「サルコペニア」と呼んでいます。サルコペニアによる症状としては、①動きがゆっくりになる、あるいは体を自由に動かせない、②固い食事がかめない、③のみ込みに時間がかかる、④むせやすい、⑤息切れがするなど、筋肉量の減少は、運動機能はもちろんのこと、咀嚼嚥下機能(よく噛んで飲み込む)、呼吸機能にまで関係してきます。
サルコペニアでは外出頻度が減少するため認知機能の低下が起こりやすくなります。また転倒・骨折をしやすくなり(筋肉が落ちると4倍骨折しやすくなります)、食事困難や代謝低下から食事量の減少が起こり、それが栄養障害となります。サルコペニアから起こったこれら全てのことが「要支援・要介護」につながっていくことになります。

透析患者さんのサルコペニア・フレイル

透析患者さんにおいては、糖尿病のない人で7~8割、糖尿病がある人は9~10割の人で筋肉量が減少しています。また、透析患者さんがフレイルになるのは、普通の人に比べて約2倍の頻度で、フレイル・サルコペニアという状態は比較的早い年代から始まっており、それによって転倒や死亡のリスクが高くなることが明らかにされています。

それでは、なぜ筋肉が減るのかというと、① 透析日の食事量が少ない,② 透析日は食欲がない,③ 透析日は活動量が少ない⇒透析日は歩かない、安静時間が多いなどが原因と考えられています.③については,週3回・1回4時間の透析では、穿刺と止血時間も含めるとほぼ4時間半から5時間かかります。これは、透析のために1年のうちの約1カ月はベッド上で安静に寝ていることになります。透析終了して回復するまで6時間以上かかる人も5人に一人はいるといわれており、こういう方達はさらに安静時間が長くなります。安静は必要な場合もありますが、安静によって筋肉は減少します。年配の人ほど安静により筋肉が落ちやすいということも分かっています。

サルコペニア(筋肉の低下、筋力の低下)対策 ① 運動

筋肉をつけるためには運動が必要です。運動には散歩、水泳、自転車こぎ、などの有酸素運動と筋トレがあります。有酸素運動はインスリン抵抗性の改善、心肺機能の改善、内臓脂肪の減少といった効果がありますが、筋肉をつけるということに関しては筋トレの方が有効といわれています。
最も効果的な筋トレとして整形外科学会が出しているロコトレというものがあります。

・スクワット(腰を落とす運動)
5~6回、一日3回、関節の悪い人やバランスがとりにくい人は手をついてもいいです。

・片足立ち
左右1分間ずつ、一日3回、机などに手をついてもいいです。
この2つの運動を行うことで、50分間程度の歩行に相当するといわれています。

歩くことに関しては、筋肉が落ちないようにするために筋トレのかわりにウォーキングをする目安としては、1日に男性8,000歩、女性7,000歩です。約2,000歩に相当する生活活動としては、芝刈り(電動)、荷物を運ぶ(7~11kg)なら10分、掃除、ガーデニング、立ち仕事、子供(孫)と遊ぶなら15~20分になります。また、歩行(速歩)、自転車、テニス(ダブルス)、ゴルフ、水中歩行などを15~20分間続けても約2,000歩に相当する運動になります。大体、1週間でトータルとして2時間~2時間半くらい歩くのがいいと思います。

透析中に筋トレをすることは、海外では以前より行われていましたが、日本ではまだそういった施設が少ないのが現状です。透析中に筋トレを行うと筋肉がついたり、日常生活の質が良くなることが分かっています。
日本のある施設における透析中の筋トレについてみると、透析開始後30分のところで3分間のストレッチング→チューブによる下肢の筋トレ(10~15分)→自転車こぎ(エルゴメーター10~30分)→ストレッチング(3分)というように、わずか1時間足らずの筋トレを週3回しただけでも3年間の観察で筋力の増加がみられたとのデータがあります。

サルコペニア(筋肉の低下、筋力の低下)対策 ② 栄養補給

サルコペニア(筋肉がやせる)を防ぐためには、蛋白質が重要です。蛋白摂取量が、1日に体重1kg当り0.9gを下回るとより筋肉が減るということが分かっています。
筋肉をつくる蛋白質の基はアミノ酸ですが、アミノ酸の中でも特に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)と呼ばれるものが重要です。分岐鎖アミノ酸は筋肉のエネルギー源になりますし、筋肉をつくったり筋肉が壊れるのを防ぎ、食欲を促進するという非常に優れもののアミノ酸です。これを1日6gくらいとらないと良くないといわれています。
分岐鎖アミノ酸(BCAAと略されます)は食事からしかとることができません。ですから、サルコペニアを防ぐためには、食事で分岐鎖アミノ酸を多く含んだ食品を食べるのがいいといえます。分岐鎖アミノ酸を多く含む食品としては、鶏肉むね肉(皮なし)、牛肉、マグロの赤身、鶏卵、牛乳、大豆製品などがあります。

このように定期的な運動と、分岐鎖アミノ酸を中心とした蛋白質をとることがサルコペニア対策ということですが、どちらか一方だけでは筋肉をつけることはできません。運動+食事をいいタイミングで行うということがとても重要だということが分かっています。運動した後ずっと何も食べないと筋肉が壊れたままになりますし、運動後3時間以上後で食事をとっても運動で壊れた筋肉を取り戻すことはできません。一番いいのは運動前後1時間以内に食事をすることです。運動と食事の時間が近いほど筋肉はつくられやすいということが分かっています。

結論として、「お達者に」のコツは、「体重減少に要注意」、「定期的な運動(もう+2,000歩)」、「運動の前後に分岐鎖アミノ酸を多く含んだ食事の摂取」を心がけることです。

これまでの話が皆様の日頃の参考になればと思います。