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「早春」

撮影日:平成25年3月17日

3月も半ばを過ぎてまだ寒暖の波はありますものの随分過ごしやすい季節となってまいりました。国内では早いところでぼつぼつ桜の開花宣言が聞かれ始めました。皆様お元気でお過ごしでしょうか。この時期、感染性胃腸炎は減少しましたもののまだまだインフルエンザは猛威をふるっているようですし、朝夕の気温差が大きいですので油断をなさらず体調ことに感染症には充分御注意いただきたいと思います。
さて少し遅くなりましたが、先月17日(日)に開催されました三島クリニック講演会における水口潤先生の御講演の内容をまとめさせていただきましたので、ぜひ御一読下さい。たいへん実際的なお話で深い内容のあるものとなっておりますのでくり返しお読みいだだき、皆様方の透析ライフに大いに御役立ていただけたらと思っております。

理事長 溝渕 正行

 

第12回三島クリニック講演会

演題 「元気で長生きをしましょう!!」
講師 医療法人川島会 川島病院 院長 水口 潤 先生

【講演要旨】

30年前,透析についての議論が2通りありました。
①塩分水分管理,蛋白制限をしっかりし,週2回の透析で管理できる。
②食事制限は緩め,その分,透析回数や透析時間を多くする。
長い目でみてみると,結果的には②のちゃんと食べてしっかり透析をする方が長生きできることが分かりました。

 

長生きをするための透析医療(七ヶ条)

元気で長生きをするためには

1,栄養をとりましょう。
食事管理は大切ですが,栄養失調にならないようにしっかり栄養はとらないといけません。
川島病院における462名の患者さんの7年間の生存率について調べたデータでも,総蛋白,アルブミンが高いほど長生きできています。また,透析がしっかりできていて透析前の尿素窒素が80程度の人が一番長生きし,あまり低すぎる人は長生きできません。尿素窒素は蛋白質が分解されたものですから,尿素窒素が高いというのは蛋白質が食事で十分とれているということです。ただし,透析前の尿素窒素が100近くまで上がると少し生存率が下がりますので,食べ過ぎもよくありません。蛋白摂取量にも適量というものがあります。
蛋白   : 1.0~1.2g/体重1㎏
エネルギー: 27~39Kcal/体重1㎏
栄養士さんと相談して,こういう食事を実践していただきたいと思います。

2,十分な透析をしましょう。
クリアランス(毒素がどれだけ抜けるか)でみた場合,週3回の透析は腎臓の1割程度の能力しかありません。体調が悪いのは尿毒素がたまるからで,十分透析をしてしっかり毒素を抜くことが大事です。
川島病院においてKT/Vやクリアスペース率という毒素がどれくらい抜けたかという指標でみても,やはりそれらの値が高いほど,すなわち毒素をよく抜くほど生存率が高いという結果になっています。

全国と川島病院の粗死亡率の推移
全国平均の粗死亡率は10%程度で推移していますが,川島病院では
6%前後と低い粗死亡率を維持していて,それを誇りに思っています。

川島病院グループの血液透析条件
血流量  : 平均250ml/min (200-350)
抗凝固剤 : ヘパリン3,000~4,000単位
透析時間 : 4時間(4時間以上)
透析膜  : Ⅳ型,Ⅴ型 1.8㎡以上の面積
透析液  : 超純水透析液(細菌数0.1CFU/ml 未満・エンドトキシン0.001EU/ml未満)

血流量を多くとることは毒素を多く抜くうえで重要です。川島病院では年齢に関係なく250ml/minの血流量から始めています。シャントには500~1000 ml/minの血液が流れているので,血流量を上げてもシャントが傷むとか心臓に負担がかかるということはありません。だから,許す限り血流量を上げることが毒素を十分とり除く秘訣です。
ダイアライザーはⅣ型・Ⅴ型の高性能膜で,1.8㎡以上の面積のものを使用しています。1.5㎡のダイアライザーも1種類だけありますが,使用している患者さんはごくわずかです。また,透析中は120Lもの透析液が薄い透析膜を介して血液と接しますので,体に直接入ってなんの影響もないレベルに清浄化された超純水透析液を使用しています。

透析医学会のガイドライン
① 透析条件
・超純水透析液基準
・血液量200ml/min以上
・透析液流量500ml/min以上
・super high-flux膜ダイアライザーを使用
・週3回4時間以上の血液透析
② 治療目標
・最大間隔透析前β2‐MG濃度が30㎎/L未満(推奨)
・最大間隔透析前β2‐MG濃度25㎎/L以下(目標)
・β2‐MG以上の物質除去により予後が改善する可能性がある
(オピニオン)

3,運動をし,体力をつけましょう。
体力をつけないとインフルエンザなどの感染に弱くなります。できるだけ運動して体力をつけましょう。
川島病院におけるデータでも透析前の血清クレアチニンやクレアチニンINDEX(%クレアチニン産生速度)が高いほど生存率が高まり,低くなると生存率は下がります。クレアチニンは筋肉から出てくるもので,筋肉量が多いほど血清クレアチニン,クレアチニンINDEXが高くなります。筋肉量が少ないほど体力が低いことになります。そういうわけで,長生きのために運動をして筋肉をつけ体力をつけることが大事です。歩数にして1日6,000~7,000歩程度歩くようにしましょう。

4,血圧管理をしましょう。
血圧が高い人は,心不全や脳卒中を起こしやすく,血圧が高いほど1年生存に与えるリスク(危険度)が高くなりますので血圧管理はとても大事です。最高血圧で140mmHg以下に維持しましょう。
塩分摂取量が多いと血圧が上がる傾向はあります。しかし,現在の塩分摂取量の基準である体重にかかわらず1日6gというのでは十分な食事量がとれない人も出てくるので,体重を勘案した塩分摂取量の基準ができる予定になっています。川島病院においても1日の塩分摂取量が6g未満の患者さんの割合は少なく,十分食事がとれていれば8g以内の塩分摂取量であればいいのではないかと考えています。

透析医学会ガイドライン
① 週初めの透析前血圧で140/90mmHg未満とする(オピニオン)
② 目標血圧の達成にはドライウェイト(DW)の適正な設定が最も重要である
③ DWの達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を使用する

5,リンの値を下げましょう。
リンが高いと動脈硬化(血管の石灰化)がおきて血管がつまります。心筋梗塞をおこしたり,足の血管がつまって足を切断しなければいけなくなることもあります。
透析医学会のガイドラインでは透析前の血清リンは3.5~6.0㎎/dlとなっています。これより高くても低くても死亡リスクが上がります。低くても死亡リスクが上がるのは,食事が十分とれてなくて栄養状態が悪いためです。
動脈硬化(血管の石灰化)が一度おこってしまったらもう後戻りできません。だから,日々のリンのコントロールというのは長い目で見ると非常に大事なことです。
① 血清リン濃度の目標値 3.5~6.0㎎/dl
・タンパク質1gには15㎎のリンが含まれます。
・1回の透析で除去できるリンは1000㎎程度です。
一週間の
リンの摂取:15㎎×60(蛋白摂取)×7(日)×0.8(吸収率)=5040㎎
リンの除去:1000㎎×3(回)+ 150㎎(消化液)×7(日)=4050㎎
このように,十分な栄養摂取(蛋白摂取)を行うとどうしても1週間で1000mg程度のリンがたまりますのでリン吸着薬が必要となります。

② CaやPTHは先生に任せましょう。

6,貧血を治しましょう。
貧血があると心臓に負担がかかります。エリスロポエチン(ESA製剤)が使われるようになって心不全での死亡率が減ってきました。
ESA療法の目標ヘモグロビン値および投与開始基準
・複数回の検査でHb値10g/dl未満となった時点
・目標Hb値は,週初めの透析前の値でヘモグロビン値10~11g/dl(ヘマトクリット値で30~33%)
・活動性の高い比較的若年者では目標ヘモグロビン値11~12g/dl(ヘマトクリット値で33~36%)
エリスロポエチンの反応性が低下している時は,鉄欠乏,炎症,低栄養,透析不足,副甲状腺機能亢進症,悪性腫瘍などが考えられます。

7,ガン検診をうけましょう。
透析患者さんは一般の人に比べて癌の発生率が高いのでガン検診をちゃんと受けましょう。

透析患者さんの悪性腫瘍
・日本での報告では非透析者に比較し男性で1.9~2.6倍,女性で3~4倍
・腎不全による発癌物質の蓄積,細胞性免疫能の低下が原因
・透析療法開始し1年以内に発見されることが多い
(これは,透析を受けるようになって定期的なガン検診を受けるため)
・好発臓器は胃(27.1%),腎臓(10.%),肝臓(8.6%),肺(7.9%),腸(7.6%)
① 年1回のガン検診
胸部X線,腹部CT,胃内視鏡,便ヘモグロビン(大腸)
前立腺がん,乳がん,子宮がん
② 腎癌の発生率は1/245人年(1年間に245人に1人)と高率
腎癌のスクリーニングは,その発生率の高さから早期発見,治療により予後の改善が期待でき,腹部超音波検査,CTによる定期的スクリーニングが有益です。

 

元気で長生きをするためには(七ヶ条)
1,栄養をとりましょう。
2,十分な透析をしましょう。
3,運動をし,体力をつけましょう。
4,血圧管理をしましょう。
5,リンの値を下げましょう。
6,貧血を治しましょう。
7,ガン検診をうけましょう。

以上の長生き七ヶ条を実践して元気で長生きをしましょう。