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今回の透析室ニュースでは、2月14日に開催されました「三島クリニック開院30周年記念講演会」での、「主催者あいさつ」及び「重松先生の御講演内容」についてまとめさせていただきます。

ごあいさつ

 

皆様、お早うございます。今年は例年になく寒さの厳しい冬となり北陸、東北、北海道などでは記録的な大雪となっているようです。ここ愛媛県四国中央市でもまだまだ寒い日が続き、インフルエンザや嘔吐下痢症などが流行しています。本日はこの寒い中しかも日曜日という休息日にもかかわりませず、三島クリニック開院30周年記念講演会のためにこうして大勢の方々に御参加いただき誠にありがとうございます。
我が国におきまして慢性腎不全に対する維持透析療法が本格的に臨床応用されて40年程になりますが、この間全国の透析患者数は年々増加し続け一昨年末の統計では28万人を超えて30万人にせまろうとしています。この原因は糖尿病など原因疾患の著明な増加による導入の増加もありますが、それ以上にこの30年あまりの間における日本の透析医療のめざましい進歩発展によるところが大きいと考えられます。すなわち、透析液の高度清浄化やダイアライザーの膜の飛躍的な進歩による分子量のより大きな毒素の除去が可能となったことによるアミロイド症の克服、透析周辺機器の進歩による透析の効率化と事故の激減などがそれにあたります。更に透析医療の向上の原因として忘れてならないのが、ここ数年の透析関連薬剤のめざましい開発であります。例えば活性型ビタミンD の内服、注射製剤、シナカルセット(レグパラ)や種類が増え選択性のひろがったリン吸着製剤などにより二次性副甲状腺機能亢進症への対処がしやすくなったことがあげられます。
開院以来この30年間、三島クリニックにおきましてもソフト面、ハード面で各種の改良改善をくり返し、現時点において日本でできる範囲での最高水準の透析医療を皆様方に提供できているのではないかと考えています。今後ともあらゆる面で日本の透析医療の最高水準に後れをとらぬように私共の能力の続く限り努力し、皆様方の健康維持に貢献して参りたいと考えています。ただここで皆様方にお願いしたい事があります。それはいつもお話しさせていただいておりますように、透析医療においては私共スタッフがいくら頑張ってみてもそこにはおのずと限界があります。つまり肝腎の皆様方が御自身の自己管理をしっかりやっていただかないことには私共のサポートは生きてこないのです。どうか皆様しっかり自己管理をしていただいて長生きをして下さい。自己管理以外には長生きの秘訣はないのです。

本日はその自己管理をお手伝いするために、腎臓及び腎不全の病気を皆様方御自身なりに正しく理解していただこうと、この講演会を企画させていただきました。
腎臓の病気、病態、及びそれに関連した心臓、血管、骨、副甲状腺やリン、カリウム、カルシウム、ナトリウムのことなどなかなか複雑で分かりにくく、何回聞いても理解しにくいと思います。そこでこの難解で複雑な病態を非常に簡単に分かりやすく、興味深くお話して下さる先生を私は一生懸命探して参りました。それが本日講演して下さる重松隆先生であります。先生は透析療法学会において大変重要なポジションにいられる先生で、透析のどの分野においても先生なしには会が成り立たないともいえる程です。
実は数年前より一度皆様方に重松先生のお話を聞かせてあげたいと思っていたのですが、本日ここに実現することとなりました。私は今からワクワクしている次第です。この愛媛の片田舎で居ながらにして重松先生のお話を聞くことができる皆様は本当に運がいいと言えます。本日は先生のお話を一言一句もらさずしっかりと聴講させていただき今後の皆様方の透析ライフの大いなる参考にしていただきたいと思います。

理事長 溝渕 正行

 

「三島クリニック開院30周年記念講演会」

「腎臓と骨は兄弟です」

講師 和歌山県立医科大学 腎臓内科・血液浄化センター 教授 

重松 隆 先生

生命は海で誕生し陸に上がりました。干からびないように塩と水を保存するため腎臓が発達し、空気を利用するため肺が発達しました。また、重力に拮抗して体を支え動くために骨が発達しました。

海水にはカルシウムは多いですが、リンはほとんど含まれていません。ちなみに魚の骨の成分は炭酸カルシウム、人間の骨はリン酸カルシウムでできています。人間は海から陸に上がった生物が進化したものですから、豊富にあったカルシウムを喪失し土中に多いリンをとりこむ機会が増え、リン負荷がかかるようになりました。
一方、カルシウムは生きていくためには必要なものなので(例えば出血した時、血を固まらせたり、神経や筋肉の働きを正常に保つ)、体にため込む必要があり陸地に豊富なリンと結びつきリン酸カルシウムとして骨に蓄えらました。その結果、骨には体のカルシウムの99%、体のリンの85%が蓄えられています。

リン酸カルシウムでできている骨は生きています。血液中のカルシウムが不足したら破骨細胞というものが骨を溶かして血液中にカルシウムを供給し、カルシウムが余ったら来るべき日に備えて骨に蓄えられます。
骨は円筒(丸い筒状)です。中身がない分体重を軽くできるうえ、縦の力である重力に対しては非常に強くなっています。しかし、円筒は横からの力には弱いという欠点があります。横からの力が一番かかるのは転んだ時で、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の状態にある透析患者さんでは非常に骨折しやすくなっています。ぜひ転ばないように気をつけてください。
骨粗鬆症であっても転ばなければ骨は折れません。特に階段の下りは膝にも負担がかかり転ぶことが多いので、階段の上りは頑張って自分の足で上り、下りは絶対エレベータを使ってください。

骨を造るホルモンである活性型ビタミンDは腎臓でのみ造られます。透析患者さんでは腎臓の働きが極度に落ちているため、この活性型ビタミンDができません。このことが骨がスカスカ(骨粗鬆症)になる根本的な原因になっています。

高リン血症は維持透析患者さんの生命予後を悪化させる(死亡する危険度が高まる)ことが分っています。このため、日本のガイドラインでも血清リンの目標値は6.0㎎/dl以下になっています。
血清リン濃度が高いとCa×P積(カルシウムとリンの値を掛け算したもの)が高くなります。Ca×P積が高いと血管の石灰化(血管に石灰が沈着する)を起こし、血管が傷んで心臓が悪くなったり脳卒中になります。すなわち、Ca×P積が高いことは命に直結することです。

リンは生体にとって本来は毒でしたが、生き物が陸に上がる進化の過程で豊富なリンを取り込みうまく有効利用するようになりました。例えば、骨の成分(リン酸カルシウム)として、あるいは遺伝子(DNAやRNA)や細胞膜の成分として、またエネルギーを生み出すATP(アデノシン三リン酸)として、リンは体にとって大事なものになりました。

リンが6.0mg/dlを超えると命が縮まります。しかし、リンが3.0mg/dl以下(低リン血症)でも死亡リスクが高まります。言いかえると「リンは高いとダメ、でも低いのもダメ。リン濃度はコントロールされる必要がある」ということです。ガイドラインでは適正なリンの値は3.5~6.0mg/dlの間となっています。そのためには、しっかり食べてできるだけ長い時間透析をしてリンを抜くことが大切です。
そういった意味からも、透析施設を選ぶ時はしっかり透析をしてくれて、透析の水をきれいにしている(透析液の清浄化に力をいれている)施設を選ぶべきです。

体のカルシウムとリンの代謝をコントロールしている司令塔が副甲状腺です。副甲状腺は上皮小体とも言われ、副甲状腺ホルモンを出します。

副甲状腺ホルモンの働きは、

  • カルシウムバランスを正にして体の中にカルシウムを溜める
  • 骨を溶かして(骨吸収)して、カルシウムを血液中に供給する
  • 腎臓からのリンの排泄を促進する
  • 余ったカルシウムを骨に蓄えることを亢進させる

などです。

健康な人ならリンが高くなると副甲状腺ホルモンが出て、腎臓からのリンの排泄を促進しようとしますが、透析患者さんでは腎臓の働きがほとんどないので、副甲状腺ホルモンがどんどん出ても余分なリンの排泄ができず血液中にリンがたまってきます。
一方、過剰に出た副甲状腺ホルモンによって骨は溶かされ、骨の中のカルシウムが血液中にでてくるため高カルシウム血症となります。ということは、血液中のリンが高いままカルシウムも高くなるということになります。その結果、Ca×P積(カルシウムとリンの値を掛け算したもの)が高くなり血管の石灰化がおき血管を傷めてしまうことになります。
そういうわけで、血管の石灰化が起こらないようにするには、まずリンを高くしないということが大事です。

透析患者さんにおいて、生命予後に関するインパクト(死亡する危険度の高さ)は、 血清リン値 > 血清カルシウム値 > 高PTH血症 の順で、要は「高リン血症が一番悪い」ということが明らかになっています。そこで、まず初めに血清リンのコントロールに主眼をおき、それができれば次にカルシウム、そして最後にPTHをということになります。

日本における腎性骨症のガイドライン

血清リン濃度  3.5 ~  6.0  g/dl
血清補正Ca濃度  8.4 ~ 10.0  mg/dl
intact PTH 60  ~  180 pg/ml

血清リンを低下させる方法としては、食事中のリンを制限することと充分な透析が基本です。充分な透析を行うための最大の条件は、血流の良いシャントです。

リン含有量が多い食品はタンパク質の含有量も多くなっており、残念なことに「おいしいものにはリンが多い」ということになりますが、やたら厳しいリン制限食はタンパク質の摂取不足にもつながるためあまり勧められません。

リン制限食と透析によるリン除去だけで
リンをコントロールすると仮定して計算してみると、
透析によるリン除去量は1週間(週3回の透析)で3000mg程度
腸管からのリン吸収率が60%とすると
1日に許容されるリンは700~750 mg/日 となります。
このようなリン制限食では、食事がかなり粗末なものになり栄養不足になりますので続けることは実質不可能です。
そこでリン吸着剤が必要になってくるわけです。リン吸着剤を服用してリンの吸収率を下げれば、高リン血症を防ぎながら食事をもっと豊かなものにできます。

リン吸着剤について

炭酸カルシウム(カルタン錠)は、

  • 食直前あるいは食事中に服用するとよく効きます。食後30分近くたって服用しても効果はありません。
  • 胃潰瘍の薬(胃酸を抑える薬)をのんでいると効きにくくなります。
  • 多く服用すると血清カルシウムが上がり、血管石灰化の危険性が高くなるので少量をきちんと服用することが大事です。

塩酸セベラマー(レナジェル、フォスブロック)は、

  • カルシウムを含まないリン吸着剤でいい薬ですが、量を多くのまないといけません。
  • 少ない水でのむと便秘になりやすいです。レナジェルを服用して便秘になった場合は、腸を動かす下剤より腸に水を引き込む下剤(ソルビトールなど)の方がよく効きます。

炭酸ランタン(ホスレノール)は、

  • 丸ごと飲み込むと効きません。口の中で充分噛み砕いて粉々にして飲み込むととてもよく効きます。
  • 食直前、食中、食後のいずれでも効きますが、空腹時にのむと副作用(消化器症状)が出るだけで全く効きません。

レグパラという薬はPTHを下げると同時にカルシウムとリンも下げる効果があります。このレグパラとビタミンD製剤やリン吸着剤をうまく組み合わせることによってリンとカルシウムを適正な範囲にコントロールすることができるようになってきました。
また、PTHもコントロールしやすくなり、二次性副甲状腺機能亢進症のため副甲状腺の摘出を行わなければならない透析患者さんが少なくなってきています。

 

「勝利は最も根気のある者にもたらされる。」 ナポレオン・ボナパルト(フランスの皇帝)
この言葉のように根気を持って頑張ってください。そして、長生きしてほしいと思います。