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酷暑

「のうぜんかずら」
撮影:平成18年8月20日

八月も残りわずかとなりました。あの感動的だった高校野球も終わり、暦の上でも立秋はとうに過ぎてしまったはずが、いまだに熱帯夜の連続となっています。今や冥王星が消されて、残った八個の惑星の中の我々が住む地球は温暖化してしまったのかとも思われる今日この頃の暑い毎日でございます。

ところで皆様体調はいかがでしょうか。くれぐれも健康に特に気をつけていただきまして、熱中症などにかからないようにお願い致します。又、この時期は病原微生物(細菌、ウイルスなど)が活発化し、人間がバテてしまう季節ですので、無理をなさらず休息と栄養を十分にとっていつまでも長く続く酷暑を乗り切って参りましょう。

さて、暑い時の皆様の大敵は他にもあります。そうです、それは水分の摂取なのです。暑いとどうしても冷たいものが欲しくなります。冬に比べると夏は汗が大量に出ますのでやや余分の水分がとれることにはなりますが、気をゆるめますと体重増となってはねかえり、苦しい透析日となってしまいかねません。

DOPPS(世界の透析の実態調査)でも、透析日毎に多くの水分を抜いている人は、そうでない人に比べて明らかに短命であるという結果がでています。どうか今回は透析中の血圧低下と水分増加の問題を今一度じっくり考えていただき、どうしたら体重増加を抑えられるかについて考え直してみましょう。

理事長 溝渕 正行

 

透析中の血圧低下

血圧とは、動脈の中を血液が流れる時に血液が血管壁を押す圧力のことです。そしてこの血圧は専門的な言葉で言うと、循環血液量(心臓から送り出される血液の量)と末梢血管抵抗(細い動脈の緊張‐収縮・拡張‐の程度)によって決まってきます。循環血液量が多くなる・末梢血管抵抗が上がる、と血圧は上昇し、その逆、循環血液量が減少する・末梢血管抵抗が下がる、と血圧は下がります。

こまで読むと難しそうに感じると思います。確かに血圧に関するしくみはかなり複雑ですが、細かいことは抜きにして、とりあえず、皆様に理解していただきたいことは、透析患者様の血圧を決める一番の要素は、「体液量」すなわち「体の中の水分量」だということです。先ほど「循環血液量」という言葉が出てきましたが、循環している血液も体液の一部ですから、循環血液量の増減で血圧が上下する、体液量(体の中の水分量)の増減で血圧が上下する、これだけはぜひご記憶いただきたいと思います。

透析中は、血液中の水分を抜くことによって循環血液量が徐々に少なくなりますから、それに伴ってある程度血圧が下がってくるのは当然といえる現象です。しかし、透析患者様の中には、透析のたびに血圧が下がり過ぎて、透析がつらく苦しいものになっている方が多くいらっしゃいます。

血圧が下がってくると、あくび・倦怠感・頭痛・胸痛・腹痛・動悸などの症状が出ますが、「体が熱い」「眠い」「ムカムカする」「トイレに行きたい」などと訴える方も多いようです。さらにもっと急激な血圧低下の場合には、全身の発汗、顔面蒼白、嘔吐(吐く)、意識障害などが起こります。このような状態を「ショック」といいますが、ショックは直接生命にかかわる危険な状態です。

透析中の低血圧の主な原因としては、「体重増加が多すぎる」、「ドライウエイト(基礎体重)が低すぎる」、「心機能の低下」などがあります。これらについて話を進めていきたいと思います。

体重増加が多すぎると、体にたまった大量の水を四時間あるいは五時間といった短い時間で抜くわけですから、水が多いほど除水速度を多くしないといけません。除水速度を多くするということは、急激な除水をするということです。透析中血圧が下がり過ぎる患者様のうちほとんどの方が、この体重増加が多すぎるため急激な除水を行うことが原因になっています。

ここで基本的なことで確認しておきたいことがあります。患者様の中には、体重がたくさん増えた時、体が太ったと思っている方がいらっしゃいますが、一日あるいは二日で脂肪や筋肉が極端に増えるということはありませんので、体重増加はすべて水がたまっていると考えてください。

では、「急激な除水でなぜ低血圧になるか」、その理由を説明したいと思います。

血液透析で体から余分な水を抜くといっても、一つの大きな袋から水を抜くのとは全然違います。体の中の水分量(体液量)は、体重のおよそ60%といわれています。体重が50㎏の人なら体の中に30リットル の水があるということになります。その30リットルが、血液中に血漿(けっしょうと読み、血液中の液体成分のことです)として2.5リットル(体重の5%)、組織間液(毛細血管と細胞の間の液で間質液ともいいます)として7.5リットル(体重の15%)、そして残りの20リットル(体重の40%)が細胞内液として存在しています。

ねむのき(合歓木)

ややこしくなりましたが簡単にいうと、体の中の水は三つの部屋に分かれて存在しているということです。そして、血液中にためておける水分の量は決まっていますから、尿量がほとんどない透析患者様では、血液中の水分が多くなりすぎると、過剰な水分は血液中から漏れ出て組織間液の方へ移動します。ちなみに、組織間液(間質液)が増加した状態を「浮腫(むくみ)」といいます。従いまして、ほとんどの透析患者様が透析前には顔や手あるいは足などにむくみが出てくるわけです。

透析で除水をすると、まず血液中の水が抜けますので循環血液量が減少しますが、その減少した分を補うため血管の周りの組織間液(間質液)が血管内に移動してきます。この現象をプラズマリフィリングといいます。(プラズマとは「血漿」ことで、リフィリングとは「再充填」とか「補充」という意味ですので、日本語では「血漿再充填」あるいは「血漿の補充」ということになりますが、プラズマリフィリングという言葉が使われることが多いようです。)

体重増加が少なければ、血液中から水を抜いてもプラズマリフィリングによって循環血液量はある一定の量を維持することができるため、大幅な血圧低下はありません。しかし、体重増加が多くて大量に除水する場合は、血液中から水を抜く速度がプラズマリフィリングの速度を大きく上回るため循環血液量を維持することができなくなります。循環血液量の急激な減少は最初に説明しました通り、急激な血圧低下になります。

さるすべり(百日紅)

ややこしく感じられるかもしれませんが、三つの部屋のうちの一つである血液中から水を抜くスピードが速すぎて、隣の部屋からの水の補充が間に合わないため、血液の循環量が減り血圧が急激に下がるということです。

プラズマリフィリング(血漿再充填)の速度は個人差がありますが、体重50㎏の方で一時間に500~600ml程度といわれていますので、四時間透析であれば2㎏程度までの体重増加(水分増加)であれば楽で安全な除水が可能であると考えられます。

体重が50㎏の方で2㎏ということは体重の4%ということになります。体重の増加が4%では厳しいと感じる方も、できるだけ5%以内の体重増加に抑えていただきたいと思います。統計的にも6%以上の体重増加では死亡リスク(危険度)が著しく高くなることが明らかとなっています。

なお高齢の方、糖尿病がある方、心臓に問題のある方、心胸比が大きい方は体重の4%以内の増加に抑えるよう一層の「水分管理」を心がけていただきたいと思います。自分で飲むことのできる水の量はおよそ1日あたり「尿量+700ml」程度と御理解ください。

体重増加が多い患者様は、もう一度食生活を見直してください。そして、水分制限を心がける前に、まず一日5~7g以内の塩分制限に努力してください。塩分をとった後ののどの渇きは絶対我慢できませんので、知らず知らずに水分を飲んでしまいます。

とにかく薄味に慣れてください。そうすれば水分管理は必ずできます。なお、誤解があるといけませんのでここで触れておきますが、水分をとるということは水を飲むことと同じではありません。つまり食べ物の中に含まれている水分をも考えに入れなければなりません。回診で水分をひかえるようにお話すると、薬を飲む水以外は飲んでないとおっしゃる方がおられますが、食べ物の中の水分もひかえる工夫もしてくださいという意味もあるのです。

 

次に、「ドライウエイト(基礎体重)が低すぎる」についてですが、設定したドライウエイトが低すぎると、透析の後半に循環血液量が著しく減少してきますので、透析の後半に血圧が下降し始めます。そして透析終了前に毎回のように著しい低血圧になることが多くなります。また、透析後半や透析後にしばしば筋けいれん(ひきつり)が起こったり、強い倦怠感や声がかれるなどの症状がでます。
こういった症状がおこった場合は、透析終了時にHANP(ハンプ)という血液検査を行い体の水分量をみたり、心胸比を測定したりして、適正なドライウエイトに再設定することが必要になります。

血圧を決定するものとして「循環血液量」という言葉が何度もでてきましたが、その循環血液量をもたらす基になるものは当然心臓ということになります。ですから、狭心症や心筋梗塞(虚血性心疾患といいます)、あるいは左室肥大や心不全などの心疾患の合併により心機能が低下している場合には、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなり(難しい言葉では心拍出量の低下といいます)、結果として循環血液量が減り血圧が低下します。
心疾患を合併している場合は、少量の除水でもすぐ血圧が下がったり、透析開始直後に血圧が下がることが多いといった特徴があります。

皆様が楽な透析ができるかどうかは、透析中の血圧の変動にかかっています。私どもは透析中の血圧管理に対して、原因を見極め今後も考えられるあらゆる方法で対処していきたいと思っています。ただし、「体重の増やしすぎ」だけは、皆様に努力していただく以外に方法はありません。心当たりのある方は、ぜひ今一度、一日700ml以下の「水分管理」とその前提となる一日あたり5~7gまでの「塩分制限」についてお考えいただきたいと思います。

 

お知らせ 三島クリニック特別講演会

「三島クリニック特別講演会」を、下記の予定で行います。
講師は、松山赤十字病院 腎センター所長 原田篤実先生に御依頼しております。
また、らくさぶろう公演「笑ってますます元気に!」、マジシャン ヒガーによるマジックショーなどのアトラクションを予定しております

(参加は、当院透析センターで透析を受けられている方及びその御家族に限らせていただきます。)

日時 平成18年10月8日(日曜日)
午前10時30分 ~ 午後2時
(10時までにご来場ください)
場所 コスモパル

記念講演 午前10:30 ~ 午後12:00
講師 松山赤十字病院 腎センター所長
原田篤実 先生  

演題 「今後の透析療法」

食事 午後12:00 ~

アトラクション 午後12:30 ~ 午後2:00

原田篤実 先生 らくさぶろう公演
「笑ってますます元気に!」

 

マジックショー
(マジシャンヒガー)

 

 

TOPIC 「研究発表について」

第17回愛媛人工透析研究会(平成18年8月26日、松山にて開催)において、臨床工学技士の田邉三恵が研究成果を発表しました。

演題 「PES-Eβの溶質除去性能評価」

要旨 PES-Eβは生体適合性がよく、小分子量からβ2-MG領域の除去性能に優れた、アルブミン損失の少ないシャープな分画特性を有する膜と考えられた。

 

患者様からの投稿「午後2時30分」 近藤 久美子〔近藤章弘様(透析歴21年年8ヶ月)の奥様です〕

月水金の午後2時30分、私にとって特別な時間です。主人が透析を終えて、車庫に車が入る音が聞こえるとほっとするのです。少し時間が遅れると、何かトラブルがあったのだろうか?いや、そうであれば病院から連絡があるはず。どこかに寄り道してるのかもしれない…などと余計なことを考えてしまいます。

発病した当時、結婚4年、長男は3歳、若かったので将来の不安が大きく、二人でいろいろな事を病院の屋上で話したのを思い出します。若いがゆえに、私が主人の体の異変に気づくのが遅かったのがいけなかったとか、主人も仕事の疲れだろうと安易に考えていたとか、二人とも反省するばかりでした。それまで病気一つせず、健康保険証も使用していないということで記念品をいただいたりしたもので、健康に自信がありすぎたのです。

それから1年後、やはり透析開始となってしまいました。それから21年余りになります。何回かの骨折やひび、原因不明の高熱、消化管からの出血と輸血。その度になんとか切り抜けてくれました。 透析を受けていると苦痛や不安もいろいろあるだろうにあまりそのような愚痴もこぼさず、私たち家族の柱でいてくれることはとてもありがたいことだと思っています。透析開始時4歳だった長男も社会人となり、透析開始後生まれた次男も大学生なりました。子供たちも小さい時からそれなりに父親の透析を理解してくれています。最近では、不安な時頼りになってくれたりもします。病気のおかげで家族の絆が強くなれたかもしれません。

院長先生、スタッフの方々、家族、友達、大勢の人たちに支えられ日々平穏な生活が送れること、安心して透析医療が受けられることに感謝しています。初心、感謝の心を忘れず、このまま午後2時30分の帰宅を待つことができる様願っています。

 

栄養室より 管理栄養士 高石 美由紀

献立

ホットドッグ
ミートスパゲティ(低蛋白)
サラダ
コーヒーゼリー

栄養成分量

エネルギー 687 kcal
蛋白    18.9 g
カリウム  537 mg
リン    228 mg
塩分    1.6  g

 

献立

魚の生姜揚げ
大根の煮付
キャベツのごま和え

栄養成分量

エネルギー 617 kcal
蛋白    20.9 g
カリウム  653 mg
リン    277 mg
塩分    1.6  g

 

季節の変わり目は風邪など体調をくずしやすい時です。風邪や発熱がある時はエネルギーやビタミンが不足しがちです。 食事が十分にとれない時は、栄養調整食品などを上手に利用してエネルギーやビタミンが不足しないようにしましょう。