講演会

開催日 2017年2月12日
講師 かわせみクリニック 院長 鈴木 一之先生
演題 「しっかり透析のヒケツ」

「週三回、一回4時間、血液流量200ml/分」といった条件の透析治療を受けている患者さんが多いですが、その透析条件で充分という医学的証拠はありません。
こういった平均的な治療を受けている透析患者さんの平均余命(ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値のこと)については、例えば50歳の一般の人の平均余命は、男性が約31年、女性が約37年ですが、同年齢の透析患者さんでは男性が約15年、女性が約17年という調査結果があり、透析患者さんの平均余命は一般の人の半分未満であるといわれています。このように透析療法は腎不全患者の命を支えているのは確かですが、透析患者さんは十分には長生きできていないといえます。

透析療法の目的は、初期には尿毒症の症状を緩和する、尿毒症で患者が死なないようにすることでしたが、現在は一般人と同様の生活の質を保つことができる、一般人と同様の寿命を全うできる、すなわち腎不全患者が元気で長生きできることが透析治療の目的になっています。

透析療法は腎臓の働きを代替する(補う)ことで、腎不全患者の命と生活を支える治療(人生を支援する治療)です。
そこで、まず腎臓の働きについてまとめると
1.体に不要なもの(代謝廃棄物など)の排泄
2.体の水分(体液)の量の調節(排泄と保持)
3.体液の性状(電解質・酸性度など)を、一定範囲に保つ(恒常性の維持)
4.内分泌(ホルモン)・代謝機能
造血ホルモンの分泌、ビタミンDの活性化、血圧の調節、
低分子蛋白質等の代謝・排泄、他臓器のホルモンを感知して機能を調節
などです。

腎臓の病気が進行すると、1~4の働きが障害されて、様々な症状や検査値の異常などが出現してきます。
このような腎臓の働きの代わりを透析ができているかということを考えてみると、1の「体に不要なものを排泄する」については、透析では抜けないものや抜けきれないものも多く、「週3回、1回4時間」の透析の腎機能相当量は10%強に過ぎません。2の「体の水分(体液)量を調節する」については、一回の透析での水分除去量には限界があり、水分除去速度が過剰になると血圧が下がります。3の「体液の性情を一定に保つ」については、透析では修正に行き過ぎもあり、時に弊害もおきます。さらに4の「ホルモン分泌、蛋白質代謝など」については、透析では全くできません。
さらに間欠的で少ない稼働時間、非生理的な身体の周期的な変化、器材の生体非適合性などの問題もあり、透析は腎臓と比較するとその機能において不完全であるといえます。
そのため、急性合併症や慢性合併症が引き起こされたり、食事制限、塩分・水分制限、薬剤の使用・服用といったことが必要になります。

透析療法の慢性合併症(尿毒症や透析生活で生じる病気)としては、

  • 腎性貧血
  • 腎性骨異栄養症、二次性副甲状腺機能亢進症、低回転骨、異所性石灰化
  • 透析アミロイドーシス、手根管症候群など
  • 高血圧、心不全、不整脈、心嚢炎
  • 動脈硬化症、虚血性心疾患、脳血管障害
  • 栄養障害、感染症、悪性腫瘍

などがあります。
こういう慢性合併症が、透析患者さんの生活の質(QOL)を落とし、生命予後の悪化の原因になっています。

また、透析患者さんの死亡原因(2014年)は、
1.心不全・心筋梗塞30.6%
2.感染症20.9%
3.悪性腫瘍9.0%
4.脳血管障害7.1%
5.悪液質・尿毒症4.0%
6.高カリウム血症・頓死2.7%
7.その他25.7%

となっています。
死亡原因から、心血管病合併症・感染症・尿毒症合併症の管理が重要だということが分かります。

元気で長生きするために大切なことは、

【1】透析で体に不要なものをしっかり取り除く
尿毒素を除去/体液の性状の異常を修正
【2】体液量と血圧を適切な範囲に保つ
過剰な水分・塩分を除去/減塩/高血圧管理
【3】十分な食事を摂取し栄養状態をよくする
きちんと食事をして十分な栄養摂取/適度な運動で筋肉量を維持
(4)透析合併症・全身合併症を適切に治療
高血圧、心臓血管病、貧血、腎性骨異栄養症等の透析合併症や糖尿病などを治療

などです。
特に【1】、【2】、【3】を実践することがとても大事です。

【1】 の尿毒素除去においては、
まず透析状態の評価において「透析量」という言葉がよく使われます。「透析量」は、「どれだけ透析したか」ということが分かる指標で、一回の透析での「透析量」は、「透析効率(K)×透析時間(t)」で表されます。また、「透析量の増加」は、「人工腎臓の腎機能の改善」とほぼ同じ意味になります。
透析量は透析効率と透析時間の掛け算で表されますから、、透析時間が長いほど透析量が増加します。「透析量」が多いほど長生きの可能性が高いことが統計調査で明らかになっています。また、透析時間を長くすることによって除水速度(1時間当たりに除水する量)の低減が可能となり、体液管理でも有利です。
透析回数は一般に週3回ですが、週3回が最善という医学的根拠はなく、隔日あるいは週4回の透析では「中二日」が無く、体の状態が急に変化することもないので体にやさしい透析をすることができ、尿毒素除去も多くなります。しかし、保険の手技料は月14回(週3回分)までしか支払われないとという問題点はあります。「週3回×1回4時間」は「最低限の透析」にすぎないという認識をもって、もう少し「回数」・「時間」について考えた方がいいと思われます。

透析回数増加・時間延長で期待される効果としては、
● β2—MGなど尿毒素の除去量増加
● リン除去量増加→リン吸着剤減量
● 体液量の管理の容易化
● 高血圧の改善→降圧剤の減量
● 透析中の血圧低下の頻度の減少
● 食事摂取量の増加/食事制限の緩和
● 栄養状態の改善
● 心臓血管合併症の改善や減少
● 造血刺激薬の使用量の減少
● 生命予後の改善(死亡リスク低下)
このように、最も重要な透析条件とは、透析回数(頻度)と時間であり、回数を多く、時間を長くは透析量増加に直結します。患者さんにとって一番つらいところが、最も大切な透析の真実なのです。

次に、「効率の改善」において血液流量増加は重要です。血液流量を上げることに不安を持っている人も多いですが、現代の血液透析では、血液流量は血圧に影響を与えない、高血液流量でもシャントの流れや心臓の負担は増えないことが明らかになっています。したがって、限られた透析時間を、血液流量を多くして有効活用しましょう。
血液流量が多いほど死亡リスクが低くなります。しかし、血液流量を上げ除去性能が高いダイアライザーを使用することによって透析効率を上げても透析時間の短縮はダメです。身体の水分は3つの部屋(血漿・間質液・細胞内液)に分かれていて、尿毒素の移動には時間がかかるため、短時間透析では身体の隅々(細胞内)まで浄化されないからです。

透析についてはいろいろな「都市伝説」があります。例えば、「尿が出ているうちは、透析は少なくてよい」については、「元気で長生き」のための目標透析量は、腎機能の30%程度ですが、尿量+「週3回×4時間」では腎機能の20%にも届かないので十分な透析とはいえません。したがって、尿が出てても透析量を少なくするのは間違いです。
また、「データが良ければ、透析を減らしてもよい」については、測定できる尿毒素はごく一部で、検査ではわからないけれど抜くのが難しい尿毒素がたくさんあること、食事摂取量が少ないとよく見えるデータもあることなどから間違った考えです。
さらに、「透析不足の症状が無く体調が良いなら、透析を増やす必要はない」ということについては、若い人や体格の大きい人、体力のある人では、透析不足の症状が現われにくく、症状が出た時は手遅れということもありますので間違った考えです。

「透析量増加」ということで、あなたにできることは、まず、最低限必要な透析量・時間を知っておくということです。日本透析医学会ガイドラインでは、尿素標準化透析量(Kt/V)1.4以上、透析時間4時間以上とされています。
次に、週あたりの透析時間を増やすことですが、1回透析時間を30分でも延ばす、施設に余裕があれば隔週または毎週プラス1回の透析を受けることです。
また、透析効率も高めましょう。透析効率を高めるためには、血液流量を上げることやダイアライザーを大きくすることが必要ですが、少しずつ身体を慣らしながら上げるのがコツです。
透析生活の初めから、毒素を溜めないように抜くことも大切です。

【2】の体液量管理について大事なことは、
まず第一に、体液量過剰は、高血圧や心臓血管合併症(心肥大・冠動脈疾患・うっ血性心不全・脳血管障害など)の原因となるので、適切なコントロールをしましょう。心臓血管合併症は透析患者の最大死亡原因です。
血圧・体液量管理には、家庭血圧・脈拍の情報は必須です。短期の変動や長期の推移もわかる方法で記録しましょう。

次は、基礎体重(ドライウェイト)は体液量を管理する基本であるため適切に設定しようということです。基礎体重は、体液量が適正範囲で血圧も体調もよい体重で、通常、透析時に除水の目標とされる体重です。体水分が多すぎる症状(むくみ、高血圧、心不全など)も、少なすぎる症状(透析時血圧低下、透析後疲労感、こむら返りなど)もない状態の体重ということになります。
基礎体重を決定する一定の公式はなく、あいまいな部分がありますが、患者の体調、診察所見〔浮腫、家庭血圧や透析血圧など〕、検査データ〔心臓ホルモン(HANP)、体成分分析(InBody)、胸部X線写真(CTR)、心エコーなど〕を参考として決めます。
また、基礎体重は、透析生活を通じて、太ったり痩せたり、必ず変動するので適切にこまめに調整することが大切です。
基礎体重の設定が適切でないと、「引きすぎ」で透析時血圧低下が起こります。透析時血圧低下では、気分不良・吐気・嘔吐・筋痙攣・視力障碍などの不快な急性の症状だけでなく、バスキュラーアクセスの閉塞・脳梗塞・狭心症や心筋梗塞・不整脈といった重大な合併症を呼ぶ可能性がありますし、生命予後の悪化にもつながります。「引きすぎ」は美徳でなく危険なことなのです。ですから、「固定観念-自分のベストは○○kgだ」とか、「より多く飲むため」とか「太りたくない・痩せたい」といって、余計に引くのはやめましょう。除水の体重減少と痩せることの違いが分かる患者になってください。

次は、透析間体重増加量を少なくしようということです。透析間体重増加の管理の基本は減塩生活です。栄養障害の原因となるので、食事量を減らしたり、厳しく制限したりしてはいけません。喉が渇く原因は食塩の過剰摂取です。塩分摂取量1日6g以内を目安に減塩して、喉が渇かない体にしましょう。

減塩を成功させるための工夫としては、
◆ 食材選択や調理の際に工夫しよう

  • 素材から調理、素材の持つ味や香りを活かす
  • 麺、パン、加工食品など、製造過程の塩分に注意
  • 香辛料(胡椒、酢、辛子、ワサビなど)や香味野菜(レモン、生姜、ニンニク、ネギなど)を活用
  • 下味に塩を使わず、仕上げ段階や食べる際に調節
  • 熱いものは熱いうち、冷たいものは冷たいうちに

◆ 外食や中食の場合はこうしよう

  • 塩分の多いメニューを知り、取捨選択する
  • 減塩調理を依頼する、または全部食べずに残す
  • スープや麺のつゆの類は「塩水」だと考える

などです。

飲みたい気持ちを抑えるためには、減塩がきちんとできているか確認しましょう。そして、日頃使うカップの容量を知るなどして自分の大雑把な水分摂取量を知っておき、「だらだら」や「何となく」など漫然と飲むのではなく、「飲みたいものを中心に飲む」など、飲み方にメリハリをつけて気持ちの満足度を上げましょう。また、透析中ならカリウムの多い飲み物でも安全ですし、水分摂取も問題ありませんので透析の時間をうまく利用しましょう(ただし、一気飲みは問題があります)。

透析患者の体重増加は、主に水分摂取量と食事量(食事中の水分)によって決まります。そのため、水分含有量の多い食事には注意が必要です。体重変化には、尿量や不感蒸泄・発汗等も影響しますが、便秘は体重増加の主な原因にはなりません。

透析間体重増加量が多いと体液量の変化も大きく、血圧低下などが起きて透析がつらくなりますし、透析間体液量が過剰な状態が続くことと同じであり、高血圧や心臓血管合併症の原因となります。つまり透析間体重増加の管理で「楽な透析」と「合併症予防」が可能となります。
統計調査においても体重増加が多いほど、また除水速度(1時間当たりの除水量)が多いほど死亡危険度が高いことが明らかとなっています。体重増加量の安全範囲は、中一日(平日)で基礎体重の3%以内、中二日(週末)で基礎体重の5%以内、安全な除水速度は10mL/時/kgDW以内(例えばDW50kgの人なら1時間当たり500mL以内)、危険な除水速度は13mL/時/kgDW以上(DW50kgの人なら1時間当たり650mL以上)といわれています。

【3】の良い栄養状態の維持に大事なことは、
まず第一に透析患者は栄養障害になりやすいということを知っておくことです。栄養障害になりやすい理由としては、尿毒症による食欲低下・不適切な食事(量の不足や質の低下)、蛋白代謝障害による異常(内分泌異常・酸血症、慢性的炎症状態による異化亢進など)、エネルギー代謝障害による異常(インスリン抵抗性・高中性脂肪血症・低HDL血症など)、透析による栄養素の喪失(アミノ酸・カルニチン・ビタミン類等の透析での除去)があげられます。

次に、栄養障害は、単に「食べないから痩せる」ということだけでなく、動脈硬化・感染症・心不全などの多くの合併症と相互に関連・悪循環する深刻な問題だということです。こういう病態をMIA(ミア)症候群という言葉で表します。MIA(ミア)とは、低栄養(栄養障害):MalnutritionのM、、炎症:InflamationのI、動脈硬化:AtherosclerosisのAというように、それぞれの頭文字を組み合わせた言葉です。
また、透析不足だと尿毒症症状のひとつである食欲不振に陥り、蛋白質の摂取不足になります。蛋白摂取不足だと透析前尿素は低値となり(検査データだけは良くなり)、透析不足が放置されることがあります。そうするとますます食欲不振になるという悪循環が起こります。この悪循環を解消するには、よく抜いて(十分に透析する)、よく食べる(十分に栄養を摂取する)ことが重要です。

次に、制限を意識しすぎないでしっかり食べ、十分に栄養を摂取しましょう。透析で抜く量(透析量)で食べられる量が決まります。しっかり透析して余裕をつくり、きちんと栄養を摂取することが大事です。

食生活の工夫としては、
・よく食べるものや自分の好みのメニューの中身(栄養素や塩分量)を、食品成分表などで学習しましょう。
・必須アミノ酸を多く含む、肉・魚・卵・乳製品・大豆製品などを十分に摂取しましょう。蛋白質を多くとるとどうしてもリンが上がりますので、リン吸着剤をうまく使いましょう。
・熱量不足は痩せの原因になるので、脂質や糖質をうまく使って、カロリーを増やす工夫をしましょう。ただし、糖尿病や高脂血症の人は、過剰摂取にも注意しましょう。

次に、適度な運動を習慣づけ、積極的に身体を動かし活動的な生活をおくりましょう。そして体力・筋力を維持しましょう。
運動(療法)の効果としては、筋肉量の増加・運動能力の改善、脂質代謝の改善(HDL増加・中性脂肪減少)、骨塩量の増加(骨萎縮の予防)、血圧を下げる、精神的、心理的効果、発汗作用の促進などがあります。
どれくらいの運動がいいかというと、心拍数をひとつの目安として、目標脈拍=(220-年齢)×0.7程度になる運動といわれています。非透析日だけの運動でも筋肉量の維持に有効です。透析中にエルゴメーターなどを使って運動する方法もあります。

統計調査においても、血清アルブミン値、%クレアチニン産生速度(筋肉量を反映する)、標準化蛋白異化率(蛋白摂取量を表す)、体格指数(BMI)が高いほど一年相対死亡危険度が下がることが明らかになっています。すなわち、栄養状態は死亡リスクに直結するということです。
ただ、蛋白質の摂りすぎや太りすぎだと死亡危険度がやや高くなりますので、栄養状態が良くてやや小太りくらいがちょうどいいということになります。筋肉も脂肪も透析患者の財産です。基本的に透析患者は長い目で見ると痩せます。十分な栄養摂取で痩せることを防ぎましょう。

「栄養管理」ということであなたにできることは、
◆ しっかり透析して、食べられる体にしましょう

  • 栄養障害の原因となる尿毒症状態、酸血症、慢性炎症などを改善して、食欲不振を無くす
  • 尿素やリンなどを多く除去して、食べる余裕をつくる

◆ 十分なカロリーと蛋白質の摂取を心がけましょう

  • 「食べられないものは無い」と意識改革する
  • 十分な蛋白質を含め、しっかり栄養を摂取する
  • いいデータにしようと定期検査前だけの食事量コントロールは意味ない
  • まとめ食い、偏食、欠食などを避ける(1日3回きちんと食事をする)

◆ 生活に運動を取り入れ、筋肉量を維持しましょう

透析とうまくつきあうには、その特徴と限界を知り、透析を嫌わず、前向きに透析生活を過ごすことです。また、透析療法の実力を知り、検査データに一喜一憂せず、透析生活で、全体として何が大切かを考えましょう。その答えが「しっかり透析」です。「しっかり透析」が、元気で長生きするために最も重要で、すべての基本です。「その日暮らしの透析」でなく、20年後、30年後を考えた透析を受けるということが大事です。

今日お話したことがいくらかでも役に立ち、明日からの治療を変えていただくことができれば幸いです。