講演会

開催日 2007年12月2日
講師 望星病院院長 北岡 建樹先生
演題 「透析ライフにおける自己管理の重要性」

腎臓は小さな臓器ですが、老廃物の排泄機能、体内環境の恒常性維持、内分泌機能、代謝機能などといった大切な働きをしています。その腎臓が何らかの原因で障害を受けると浮腫、高血圧、肺水腫、心不全、アミロイドーシス、腎性貧血、腎性骨症などといったさまざまな病態が全身に起こってきます。

最近、腎臓の機能が悪くなってきたら原因疾患に関係なく慢性腎臓病(CKD)という言葉が使われるようになってきました。これは、世界的に透析患者数の増加、また高齢者や糖尿病患者の増加によって今後さらに透析患者が増えることが予想され、そうなれば社会経済的に大きな問題となるため腎臓病の早期発見と早期治療により進行を阻止しようとする考えに基づくものです。

2006年12月末現在における透析患者数は264,473人で、この数は日本国民480人に一人が血液透析を受けているということになります。
透析導入の原因疾患は、1998年からは慢性糸球体腎炎に代わって糖尿病性腎症が第1位となっています。また、2005年に新しく透析導入した人の原因疾患をみると、糖尿病性腎症が42.9%、高血圧や加齢による腎硬化症が9.4%、慢性糸球体腎炎が25.6%となっていて、糖尿病性腎症と腎硬化症による透析患者が年を追うごとに増加してきています。また、透析患者の平均年齢も年を追うごとにあがってきていて高齢化が進んできています。

現在の透析療法の医学的問題点としては、透析患者の高齢化、糖尿病による腎不全の増加、長期透析に伴う合併症の多様化、栄養障害などであり、それによって透析維持が困難なことや生活の質の低下あるいは予後不良などといった事態が起こってきています。

日常生活における質と活動力を維持するためには、透析療法を中心に食事療法、薬物療法、運動療法を連携して行なうことが重要です。
いい透析を行なっていくうえで自己管理は重要です。また、自己管理によって合併症の改善や進展防止という面でもかなりの部分で効果があります。

自己管理が可能なこととしては、体温、血圧、体重などの測定、シャント管理、食事内容(熱量、水分、塩分、カリウム、リンなど)のチェック、薬をきちんと服用する、筋力の衰えを防ぐための運動療法などがあります。そういった自分でできることはしっかりやっていただきたい。

食事療法は透析治療における基本中の基本で、しっかりと食事療法を行なうことで合併症の予防・防止を行なうことができると同時に透析療法の効果を上げることができます。透析食の考え方は、バランスの良い食事で、適切な熱量と蛋白質、水分・塩分・カリウム・リンの制限ということになります。

透析患者さんの死亡原因のうち、心不全・脳血管障害・心筋梗塞という心血管系の病変がもっとも頻度が高くなっています。そのため長生きをするには、心血管系の管理が重要です。
心血管系の病気にならないためには、食事療法(水・塩分の制限)と薬物療法による血圧の管理、高脂血症やカルシウムとリンの管理をしっかり行い動脈硬化を予防すること、貧血の管理などが大切です。

透析患者さんにみられる高血圧のうち、大部分(70%以上)は体液量の増加による「容量依存性の高血圧」で、透析により過剰な体液量を除去すること(除水操作)によって血圧は正常化します。残りの20%程度は「レニン(血圧を上げることに関係したホルモン)依存性の高血圧」ですが、実際には「容量依存性」と「レニン依存性」の両者を合併した高血圧もよくあります。除水しても高血圧が改善できない場合は降圧薬を服用しなければいけません。結局のところ、高血圧に対しては、水分・塩分摂取量の制限が基本で、次に透析による除水で適正なドライウエイトの達成、降圧薬の服用ということになります。

水分摂取量の制限のためには、塩分制限をすることが第一です。塩分を取りすぎるとのどが渇き、水を飲んでしまいます。たとえば塩分8gを摂ると水を約1リットル摂取することになります。減塩醤油、レモン味、ケチャップ、酢味など調味料の工夫をして1日の塩分摂取量は5~7g程度に制限することを心がけましょう。そして、水分摂取量を尿量+700ml程度に制限し、透析間の体重増加を、中1日ではドライウエイトの3%以内に、中2日でドライウエイトの5%以内に抑えましょう。

体に溜まった過剰な水分を透析で急激に除水すると、足がつったり急に血圧が下がるといった透析困難症の発現、心血管系への負担が増強、シャントがつまる、あるいは心筋梗塞、脳梗塞、虚血性腸炎の出現といったことが起こりうる可能性が増大します。

透析患者さんの中には、持続性・慢性低血圧の人や透析療法治療中から透析後にかけてのみ低血圧になる人がいます。このうち持続性低血圧の原因としては、心機能不全、血管反応性の低下、本態性低血圧、レニン-アルドステロン系の機能不全、自律神経系の機能不全、ドライウエイトの設定ミスなどが考えられます。
十分な透析を行なうためには、透析中の血圧の維持ということはとても重要ですから、持続性低血圧の患者さんに対してはドライウエイトの設定を検討したり、血圧を安定させるあるいは血圧を上げる薬剤を使わなければいけません。また、透析治療中のみ低血圧になる場合には、ドライウエイトの適正設定、降圧薬使用の検討、血圧を安定させるあるいは血圧を上げる薬剤の使用、透析方法の工夫などの対策が必要です。

栄養状態が悪いとどうしても死亡危険度が上がります。栄養状態の指標としてアルブミン濃度を4 g/dl程度の正常な値を維持していただきたい。そのためにも適正な蛋白質摂取とバランスのとれた食事療法が大切です。

腎性貧血を改善することによって、身体的活動力が向上し、ADL(日常の生活活動)やQOL(生活の質)が非常によくなります。また、心不全の防止にもなり死亡率の軽減と予後の改善につながります。貧血改善の目標としては、2007年の日本透析医学会でのガイドラインの見直しも踏まえると、ヘモグロビン濃度で10~12 mg/dl、ヘマトクリットで30~36%の範囲でコントロールするのがいいでしょう。

高カリウム血症は、痺れ、脱力感、不整脈などの症状がでますが、ひどくなると心停止を起こす危険なものです。カリウム含有量の多い食品をしっかり勉強して、そういったものの摂りすぎには十分注意してください。また、定期検査の結果が出たら、検査のカリウムの値と摂取した内容の照らし合わせをして、カリウムの値が上がっている場合には、必ずその原因を探ってください。

カルシウムとリンについは、血管の石灰化ということが一番の問題になってきています。血管の石灰化は、心臓を養っている冠状動脈を始め末梢血管まで全身の血管で起こってきます。血管の石灰化は一度起こってしまうと、その治療は困難になってきますので、カルシウムとリンのコントロールをしっかり行なって予防することが重要です。
リン、カルシウム、インタクトPTH(副甲状腺ホルモン)の管理目標値は、血清リン濃度 3.5~6.0 mg/dl、血清カルシウム濃度 8.4~10.0 mg/dl、インタクトPTH 60~180pg/mlに設定されています。

リンのコントロールに関しては、リン吸着薬をしっかり服用することが大事です。また、食品中のリン含有量を理解して、検査結果と食事内容を対比してチェックしてください。高リン血症はカリウムとは違ってすぐに症状は出ませんが、長い年月の間に骨病変や異所性石灰化といった大きな合併症となって現れることをよく理解して十分注意してください。

透析治療を十分行なっていくためには、医療者と患者さんとの深い共感関係を築きあげ、コミュニケーションをしっかり持つことが大切です。そしてより良い透析ライフのためには自己管理が重要であることをしっかり理解し努力していただきたいと思います。