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「新 緑」


5月に入り周囲の草木も鮮やかな緑となり、美しく一年中で最も快適な季節となりました。皆様、体調はいかがでしょうか。まだまだ日中と夕方以降の気温差が大きいので、風邪などひかぬよう気をつけてください。

5月8日から、新型コロナウイルス感染症はインフルエンザと同じ5類感染症に分類されました。しかし、ウイルスの感染力が低下したわけではなく、弱毒化したわけでもありません。第8波を超える規模の第9波が起きる可能性も指摘されていますので、引き続き感染対策に努めていただきたいと思います。感染を予防するためには、以下の注意点を実践することが必要です。

 

  • 定期的な換気やこまめな手洗い、咳エチケット、流行時の3密回避、体調不良時の会食参加の見合わせなど、基本的な感染対策の日常化
  • 効果的な場面でのマスク着用。特に医療機関や高齢者施設の訪問時には、マスク着用を含め施設管理者が求める感染対策に協力を
  • 透析患者さんや高齢の方など重症化リスクが高い方は、特に感染状況に留意し、流行時には人混みを避け、マスクを着用するなど、必要な感染回避行動を

 

今回の透析室ニュースでは、透析患者さんの重要な死因である「心臓疾患」についてと「カリウムのコントロール」についての話を紹介しています。カリウムの毒としての作用は待ったなしであり極めて危険です。大事なテーマですので、よく読んでぜひ参考にしてください。

理事長  溝渕 正行

 

透析と心臓疾患について

透析療法は腎臓の機能を完全に代行することができません。そのため、透析療法を長期間続けていると、さまざまな合併症が起こることがあります。透析患者さんの多くは、腎臓病が悪化して亡くなるのではありません。最も多い死亡原因は心不全で、透析患者さんのおよそ3人に1人が,心不全および脳血管障害、心筋梗塞を含む「心血管疾患」で亡くなっています。

透析患者さんは一般の人に比べて、心血管疾患を起こすリスクが高いことがわかっています。その理由は、透析導入前から心血管疾患の原因である動脈硬化が進行しているためです。また腎機能の低下に伴って心臓にかかる負荷が大きくなることも原因の一つです。

 

透析患者さんの死亡原因(2021年)

動脈硬化

ここで、まず動脈硬化について知っておきましょう。    動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールやカルシウムなどがたまって血管が狭くなり、血液が通りにくくなった状態のことです。透析患者さんでは、高血圧,高脂血症、リン・カルシウムの代謝異常などが重なり合い、動脈硬化を起こしやすい状態になっています。

 

 

心血管疾患の種類

透析患者さんの動脈硬化は全身の血管で進行するため、さまざまな心血管疾患を起こす可能性があります。

 

脳血管障害

脳の血管が破れて出血する脳出血と、脳の血管がつまる脳梗塞があります。どちらも体の片側のまひが生じ、後遺症が残ることもあります。

 

虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)

  • 狭心症 :心臓の筋肉に酸素や栄養を送る血管(冠動脈)の一部が狭くなり、血液の流れが悪くなって心筋の酸素不足を起こす病気です。
  • 心筋梗塞:冠動脈が血のかたまりで詰まってしまい、そこから先に血液が流れなくなり、心臓の筋肉が死んでしまう病気を言います。緊急に治療を行わないと生命に危険を及ぼします。

どちらも突然の胸痛や胸の圧迫感、冷や汗などがみられます。

 

心臓弁膜症(べんまくしょう)

血液の逆流を防ぐための弁が石灰化などにより動きが悪くなり、心臓が血液をうまく送り出せなくなります。さらに血液の逆流により心臓に負担がかかります。

不整脈

上記のような心臓の疾患や血液中のカリウムの異常などが原因で、心拍数やリズムが不規則になります。

 

閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)  (ASO:エイエスオーと略します)

足の血管がつまる病気です。歩くと足が痛む、足がしびれるなどの症状がおきます。

 

 

心不全

心臓のポンプ機能が低下した状態で、さまざまな心臓病が原因となります。しかし、透析患者さんにおこる心不全の原因のほとんどが、水分と塩分の溜まり過ぎによるものです。水分と塩分が溜まると血液の量が増え、これを送り出す心臓の仕事量が増えます。この状態が長く続くと心臓の筋肉は厚くなり(心肥大)、やがて疲れはてて働きが落ちます

このような状態を心不全といいます。

心不全はつねに透析患者さんの死因の第1位を占めています。食事や水分・塩分の過剰摂取をひかえ、心臓に余分な負担をかけないように注意することと、溜まった水分や塩分を透析で適切に除去することが必要です。心臓の過剰な負担を防ぐためには、透析後の適切な体重(ドライウェイト)を守ることも重要です。

 

塩分に要注意

塩分と水分は切っても切れない関係があります。塩分をとりすぎると、のどが渇いて水分が欲しくなります。ですから、塩分の制限が水分の制限にもつながります

 

 

高カリウム血症について

透析患者さんでは、腎臓が体の余分なカリウムを除去することができないことと、1回の透析で除去できるカリウムの量には限度があるため、血液中にカリウムが蓄積して「高カリウム血症」をおこしやすくなっています。

高カリウム血症のもっとも深刻な問題は、心筋障害です。血清カリウム値が高くなると不整脈などが出現し、血清カリウム値が7mEq/L以上では心停止の危険性があるため緊急な治療が必要になります。

10数年前までは、高カリウム血症で毎年1,000人以上の透析患者さんが亡くなっていました。近年は徐々に少なくなってきていますが、それでも年間600人以上(全死亡者の約2~3%)の方が高カリウム血症で亡くなっています。当院でも高カリウム血症の方が少なからずいらっしゃいます。幸い心停止になった方はいませんが、十分お気をつけください。

 

高カリウム血症の症状

① 口の周りのしびれ、手足のしびれ、ろれつが回らない、味覚障害

② 筋肉の脱力感(足に力が入らない)

③ 吐き気・嘔吐

④ 脈のみだれ、動悸、息苦しい → 心停止

 

高カリウム血症は、2日間透析を行なわない明けの日によく起こります。日頃からカリウムが高い方は、「おかしい」と感じたら手持ちのカリウムを下げる薬をのんで、電話連絡のうえ来院してください。

 

バランスよく食べてカリウムコントロール

カリウム制限といえば、「生野菜を控える」、「果物を控える」、「水さらし、茹でこぼし」とよく言われますが、実はカリウムはいろいろな食品に含まれているのです。

たんぱく質が多い食品(肉、魚、大豆製品)にも多く含まれています。たんぱく質は筋肉や体をつくる大事な栄養素です。適正量を摂るようにしましょう。エネルギー源となるご飯やパンにはカリウムは多く含まれていないので、しっかり食べるようにしましょう。ただし雑穀玄米にはカリウムが多いので精製されたものにしましょう。

透析患者さんは、カリウム2000mg/日以下とされています。「透析食1日の食品配分例」からもわかるように、目安量以上に食べ過ぎたり、それ以外にカリウムの多い食品(ポテトチップス、ナッツ、乳製品、コーヒーなどの飲料)が過ぎると高カリウム血症になる恐れがあります。黒砂糖、きな粉、豆乳、野菜果物ジュース、昆布、青汁、玉露にも要注意です。

これからの季節、たけのこ、タラの芽、そらまめ、とうもろこしに気をつけましょう。カリウム含有量が多いうえ、茹でてもほとんど減りません。新茶もカリウム含有量が多くなっていますので飲み過ぎに注意してください。新じゃが収穫時は量に気をつけて食べてください。カリウム制限や体重管理を意識するあまり、好きな物を食べたいからと食事量を減らすことがないよう、よりよい食事管理をおこないましょう。