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透析室ニュース
第76号 令和3年5月19日発行
「梅雨」
桜の花が散り、つつじの花も終わりそろそろ夏だと思っていると、もう梅雨に入ってしまいました。風薫る「五月晴れ(さつきばれ)」は、どこへ行ってしまったのかと戸惑うばかりの気候が続いています。皆様方の体調はいかがでしょうか。
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染も、わが国では変異株の出現以来第4波に襲われて、5月中旬現在未だ全国で1日5,000人以上が新たに感染し(5月18日 5,230人)、死亡される方も1日100人前後(5月17日 122人)となっています。早く政府の主導によるワクチンの接種が広く国内に行き渡って、感染が落ち着いてくれるといいですね。それまでは、どうかマスクの着用、不要不急の外出や3密を避け、手指消毒を徹底して感染の予防に努めて下さい。
今回の透析室ニュースでは、まず最初に透析患者さんの骨粗しょう症について取り上げてみました。透析を受けておられる方の骨粗しょう症の治療は、透析患者さんに多い副甲状腺機能亢進症との関係もあってなかなか治療が困難でしたが、ごく最近骨粗しょう症治療薬の進歩もありまして、治療が可能となってきました。骨粗しょう症の治療については、また改めて解説させていただくとして、今回は「骨粗しょう症と骨折」について解説させていただきたいと思います。
次いで、元気に長生きをするために骨以外の全身の筋肉や臓器を丈夫にしなければなりません。その為には、しっかり食事を摂取しなければならず、その入り口である口腔内を元気にして、バランスの良い食事をしっかり摂る必要があります。つまり「オーラルフレイル」を治していく必要がありますので、この点についても詳しく話をさせていただきます。参考にしていただいて毎日元気を出していきましょう。
理事長 溝渕 正行
骨粗しょう症と骨折について
「透析患者さんは転倒するとすぐに骨折してしまう」とよく聞きます。当院においても過去に骨折した方が60名以上いらっしゃいます。そのうち20数名の方が2回以上骨折しています。また、今年になってから現在まで、すでに8名の方が骨折しました。
なぜでしょうか。これは透析患者さんが、多くの場合、骨折しやすい状態、骨粗しょう症の状態にあるからです。
骨粗しょう症とは、骨の量(骨密度)が低下して、骨の中がスカスカの状態になり、骨がもろくなる病気です。背中の骨が痛くなる、背骨が曲がる、身長が低くなったなどの症状が出て、年齢とともにだんだん進んでいきます。
一般的に、骨はカルシウムが抜けて骨が壊されること(骨吸収といいます)と、新しい骨が造られて強くなる(骨形成といいます)過程がバランスを保って繰り返されています。これを難しい言葉で言うと「骨の代謝回転」といいます。しかし、透析患者さんでは、このバランスが崩れ骨を溶かして壊すスピードが勝り、新しい骨を造るのが間に合わず骨の量(骨密度)が低下して骨粗しょう症が進行していくことになります。
骨粗鬆症は、骨折しやすい状態ですが、骨折は打撲や転倒で強く骨に刺激を与えた時に起こります。骨折しやすい所は、大腿骨の付け根(大腿骨頚部骨折)、背骨(脊椎の圧迫骨折)、手首(とう骨遠位端骨折)で、自宅で生活する人の転倒発生率は年10~25%といわれています。
具体的には、
・ 起きた時、ベッドから降りようとしてしりもちをついた。
・ トイレに行くときに、足元がふらついてしりもちをついた。
・ 家の中で、足の指や膝、腕をドアや家具にぶつけてしまった。
・ 透析後、家に帰る時、送迎バスを降りて家に入る時や、家について玄関に入った時転倒してしまった。
など、ちょっとした事で骨折になっています。
骨折となれば、コルセットを使用したり、手術をしたりしますが、安静が必要になったり、体動が制限されたりします。このことで更に、脚や全身の筋力が低下し、転倒の危険性がますます高まることになります。また、骨が治るのは、他の傷が治る場合に比べて時間がかかります。これらのことを考えると骨粗しょう症は骨折を起こしやすく、それが、筋力低下、転倒、骨折と悪循環につながる可能性が高いといえます。
特に、透析患者さんの大腿骨の付け根(大腿骨頸部)の骨折の発症率は、男性は一般の方の6.2倍、女性は4.9倍といわれており,骨粗しょう症は閉経後の女性に多いことが知られていますが、透析患者さんでは男性の骨折も少なくありません。
さらに、大腿骨の骨折はそのまま寝たきりになる危険性がありますし、あるいは再び転倒することへの恐怖感を増大させて、閉じこもりがちになったりします。したがって、転倒を防ぐことは、人生の質・生活の質(QOL)を維持する上でとても大切なことです。
転倒予防には
・ スリッパ等は避け、滑りにくい靴を履きましょう。
・ ベッドから降りるとき、特に朝の寝起きは、目をしっかり覚ました後動作をゆっくり行いましょう。
・ 睡眠薬を服用している方は、副作用として夜間や日中にふらつきが起きることがありますので十分注意しましょう。
・ じゅうたん、カーペットの端がめくれていたり、よれていたりして段差があるときは、ひっかからないよう注意しゆっくりと歩きましょう。
・ 部屋や玄関をかたづけ、つまずきやすいものを置かないようにしましょう。
・ 夜間、トイレに行くときなどは電気をつけて明るくしましょう。
・ お風呂はすべりやすく、ふらつきも起きやすいので気をつけましょう。
また、長湯はしないようにしましょう。
・ 透析後は血圧低下やふらつきが起きやすいので気をつけましょう。
特に転倒のリスクが高いのは、主に糖尿病で神経障害や視覚障害の合併症がある方と、運動不足や栄養不足で「サルコペニア(筋肉減少症)」になっている方です。
股関節周囲やひざ周囲の筋肉が少ないと歩行の安定が失われ、骨折しやすいことがわかっています。いすに座ったまま、太ももの上げ下ろしを左右それぞれ10回。蹴り上げるようにひざ関節を曲げ伸ばす運動を左右それぞれ10回。これを1カ月間、朝夕行うだけでもひざ周辺の筋肉がつき歩行がより安定します。
骨粗しょう症の治療
透析を受けられている方の骨粗しょう症の治療は難しかったのですが、近年骨粗しょう症治療薬の進歩もあり、治療が可能になってきました。
ですが、骨粗しょう症治療薬の種類によっては、ごくまれにあごの骨の壊死(えし)やあごの骨髄炎(こつずいえん)が起こることがあります。
この副作用は、多くの場合、口の中の環境が悪い時や抜歯などの歯の治療に関連してあらわれますので、次の点について医師やスタッフから十分説明を受けて、必ず実行してください。
① 副作用が起こる可能性のある薬での治療を始める前に歯科検査を受け、抜かなければいけない歯がある場合は、できるだけ抜歯などの治療を済ませること。
② ブラッシングなどで口腔内を清潔に保つこと。
③ 定期的に歯科検査を受けること。
歯科受診の前には、医師が診療情報提供書(医科歯科連携用)を作成しお渡ししますので、必ずそれを持参して歯科受診してください。
歯とお口の健康 ~いつまでも元気でおいしく食べられるように~
管理栄養士 飛鷹 佳枝
オーラルフレイル
あてはまるものありますか?
□ むせる ・ 食べのこす
□ 食欲がない ・ 少ししか食べられない
□ 柔らかいものばかり食べる
□ 滑舌が悪い ・ 舌が回らない
□ お口が乾く ・ においが気になる
□ 自分の歯が少ない ・ あごの力が弱い
「オーラルフレイル」とは
オーラル(口腔)とフレイル(虚弱)を合わせた言葉です。お口に関するささいな衰えが積み重なると、お口の全体の機能が低下し、食べる機能の障害へと進んでいきます。オーラルフレイルにより栄養状態が悪化すると、体力や筋力の低下を招き、全身のフレイルにつながります。
予防のために
早めに気づき適切な対応をすることが大事です
・かかりつけ歯科医を持ちましょう
・バランスのとれた食事をとりましょう
・口の“ささいな衰え”に気をつけましょう
バランスのとれた食事にするために
① 主食・主菜・副菜をそろえましょう
ご飯など穀類の「主食」を基本に、肉や魚、卵、大豆などのたんぱく質主体のおかず「主菜」、野菜、きのこ、海藻などの「副菜」を組み合わせましょう。
主食→エネルギー源, 主菜→筋肉や血をつくる, 副菜→体の調子を整える
② 適量を食べましょう
大盛にしたり、おかわりをするとカリウムやリンの摂り過ぎにつながることがあります。
主食、主菜、副菜の組み合わせを意識するだけでも食事のバランスがよくなります。
③ 一度の食事内容だけにこだわらないようにしましょう
栄養バランスが偏ったときは、次の透析までの間で整えましょう。数回の食事の中で栄養バランスを考えることも大切です。例えば、朝食で野菜不足であれば、昼食で補いましょう。