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「ボロニア」
撮影:平成18年3月27日

何十年ぶりかの厳しい寒さが続いたこの冬もようやく終わり、桜の開花の知らせが日本各地から届き、またワールド・ベースボール・クラシックで日本が優勝したり、まさに“春到来”といった感の今日この頃でございます。
皆様、体調はよろしいでしょうか。気候的には1年の中でももっとも好調を維持しやすい時期となってきました。しかし決して油断できません。この4月からは、小泉内閣の主張する“小さな政府”との構想のもと、大幅な透析医療費の実質切り下げが実施されようとしているのです。つまり政府はいくら良い治療をしても今迄通りの費用は出さない、減額すると言っているのです。従いまして今後は皆様方には今迄以上に自己管理(食事療法を中心とした)をきっちりとしていただいて、体調を崩さないようにしていただかないといけない時代になってきているのだろうと思われます。今一度、基本に返っていただいて、自己管理法を見直していただければと思っています。
私たちはスタッフ全員でそれを応援させていただきたいと思っています。是非これを苦痛ととらえずに楽しく頑張っていただいて大いに長生きして下さい。

理事長 溝渕 正行

 

第6回三島クリニック講演会要旨

演題 「これからの透析療法をどの様に乗り越えるか」~元気で長生きするためには~

講師 大阪府立急性期・総合医療センター 腎臓内科部長 椿原美治先生

1972年当時の透析療法適応基準は、15歳~45歳の患者さんで、糖尿病性腎症やガンなどの生命予後不良な疾患ではなく、仕事が出来る人に限る(人工透析研究会会誌による)となっていました。この厳しい基準は、透析台数の不足や透析技術の未熟さのため合併症を持った患者さんには対応できないことが原因でした。
その後透析技術の進歩や更生医療の適用によって、透析患者数は増加の一途をたどっています。特に、糖尿病から透析に入る患者さんの増加が著しく、また透析導入患者さんの高齢化が顕著になってきています。

透析患者さんの増加に伴って、透析医療費は国民総医療費の30分の1を占めるまでになり、国としては「小さな政府」を目指す中で透析医療にかかる費用は切り捨てられる方向に向かっています。透析医療費の削減を目的にした透析診療報酬改定が次々と行われる状況の中では、政府(厚生労働省)頼みではなく、「自分の身は自分で守る」ということが大事です。

長生きするためには、透析時間が重要です。透析時間が通常3時間あるいは3時間半であるアメリカでの死亡率が高いことからも明らかなように、透析時間の短縮化は透析患者さんの生存率を低くします。高血流による短時間透析では、体中の毒素を抜くことは出来ませんので透析時間はできるだけ長くしましょう。

腎臓の機能が正常であれば、余分なものを尿中に排泄することによって体の中の水の状態は一定に保たれるのですが、腎不全の患者さんでは「出口が狭い」、すなわち口から入ってくる食物に対して、それに見合った処理ができません。だから、透析患者さんでは必然的に口から入る物を制限(食事療法)しなければいけません。
また、日常生活をしている時間の方が透析時間に比べて圧倒的に長く、「自分の身は自分で守る」ということはこの日常生活においていかに自己管理(=食事療法)が出来るかということにかかっています。この日常生活においての自己管理こそが、患者さんにとっての本当の意味での透析療法なのです。

自己管理のうち最も重要なのは透析間の体重増加で、統計によりますと体重増加が多い人ほど長生きはできません。透析間の体重増加はドライウエイトの5%以内(ドライウエイト50kgの人なら2kg以内)にしましょう。
また、透析中に血圧が急に下がりやすい人や透析終了後立ち上がると血圧が下がる人は長生きできません。糖尿病がある方や高齢の患者さんでは、動脈硬化や自律神経障害のため除水すると急激に血圧が下がったり、透析後立ち上がった瞬間に血圧が下がることがよくあります。こういう方たちは、透析間の体重増加を多くしないように、より一層気をつけることが重要です。さらに透析時間を長くしてゆっくり除水すれば急激な血圧低下は防止できます。

日本人全体でみた死因は、第1位はガン、2位は心臓病、3位は脳卒中ですが、透析患者さんに限ってみるとその死因は、第1位が心臓病、2位が感染症、3位が脳卒中です。また、透析新規導入患者の1年以内の死因と1年以上維持透析をしている患者の死因が同じことから、透析導入時からすでに多くの患者さんが心血管合併症を持っていることが分かります。これは、透析導入患者の平均年齢が65.4歳、その4割以上が糖尿病性腎症であるということが関係していて、透析導入後さらに悪くなることが心臓病での死亡率を高めることにつながっていると考えられます。
冠動脈疾患の治療は非常に進歩してきていて、それが原因で亡くなる人は少なくなってきています。冠動脈疾患があると透析中の血圧が下がりやすいので、血圧を下げないためにも冠動脈疾患の検査をぜひ受けていただきたいと思います。

次にリンについていうと、透析前リン値を5.5mg/dl以下にすることを徹底することが必要です。リン値が高いとカルシウムと結合して、骨以外の血管や関節などに石灰化が生じ動脈硬化や関節痛を起こしたり、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を促し骨が溶け骨折などが起こります。また、蛋白質が多い食物はリン含有量も多いので、リン値を上げないためには適正量の蛋白質を摂り、リン吸着薬を必ず飲むことが大切です。

透析患者さんが食欲低下などによって体がやせていった場合、その都度ドライウエイトを見直さないと過剰な水分のため心不全の原因になったり、また栄養不良のために感染症を起こしたりします。心不全と感染症は透析患者さんの2大死因です。

栄養評価としてアルブミン値3.5~4.0g/dlを基準にすると、それ以下では生命予後は不良であり、4.0以上すなわち栄養状態がよいほど死亡の危険度が低く、また、やせている人より多少肥満傾向(BMI:22)なほど予後が良好(死亡危険度が低い)です。

透析患者さんにおいては、総コレステロールが高いほど健常者と同じように心筋梗塞の発症率が上がる傾向はありますが、それにもかかわらず心血管系死亡率は少なくなるというパラドックス(矛盾)があります。従いまして、長期生存のためにはコレステロールを下げることを考えるより、個々の患者さんの状態に応じたコレステロールを含めた栄養管理がより重要です。

突然死の原因になる高カリウム血症は、カリウムの多い食品の食べすぎ・透析不足・便秘・消化管出血・感染症などによって起こります。「お盆やお正月くらいはいろいろ食べよう」というのが一番危険です。消化管出血による高カリウム血症の頻度も高いので、便の色をチェックする習慣をつけましょう。

透析前のヘマトクリットは30~33%が一番良く、高齢者ではそれよりやや低目が、そして若い患者さん(年齢35~45才)では33~36%が理想です。
透析終了後血圧が下がって、しかも除水によってヘマトクリットが上がり過ぎたら血管が詰まりやすくなります。すなわち心筋梗塞や脳梗塞の危険率が上がりますので注意が必要です。

透析患者さんは、原疾患の違いや年齢の違い、また合併症の有無などその背景はさまざまで、それに対する治療方針も異なるため個々に応じた治療・養生が必要です。

最後にまとめとして、透析患者さんが元気で長生きするためのコツは、十分な透析・十分な食事・十分な運動、そして自分で治療法を選択し、自分の体は自分で守るという気持ちを持つことです。

 

「経鼻的内視鏡検査について」鼻から入れる内視鏡検査

がんの早期発見のためには、定期的な内視鏡検査(胃カメラ)が重要だということは分かっていても、胃カメラは苦しい検査というイメージが強く、検査を受けることをためらう方が多くいらっしゃいます。胃カメラがつらく苦しい検査だと思われる原因は、検査中に舌根部(舌の付け根)に内視鏡があたり咽頭反射が起こり「オエッー」という吐き気を催すからです。
当院では2月より、この咽頭反射を避けるため先端部の直径が5.9ミリという現在最も細い内視鏡を鼻から挿入する方法で検査を行っています。(使用機器:フジノン東芝ESシステム株式会社製極細径上部消化管内視鏡EG-470N )
鼻から入れることによって、内視鏡が舌根部に触れることがなく「オエッー」という咽頭反射はほとんどなくなります。鼻からの内視鏡検査を受けた方の90%以上の方が「楽だった」と回答したというアンケート結果もあります。また、口が空いているので検査中画面を見て所見を聴きながら会話をすることができますし、入れ歯を外す必要もありません。

胃カメラは、もう苦しい検査ではありません。ぜひ、進んで検査を受けていただきたいと思います。

 

お知らせ 「福祉車両ウェルキャブの導入」

従来の送迎用ワゴン車3台に加えて、お身体の不自由な方や歩行が困難な方のために車いす仕様車(福祉車両ウェルキャブ)を新規に導入いたしました。
1月19日より運行していますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。

「ウェルキャブ」は、身体の不自由な方の幸せな暮らしのために役に立つことを願ってWelfare(福祉)・Well(健康)・Welcome(温かく迎える)とCabin(客室)と組み合わせて命名された福祉車両のことです。

 

患者様からの投稿「皆様に支えられて」 高橋 勝子

私は、透析を開始してもうすぐ17年になります。透析を長く続けていると、順調な日ばかりではありません。水分制限が守れず、体重増加が多くなりすぎてしんどい透析になることもありますし、ついついリンやカリウムが多い食事になり、検査データが悪くなることもあります。透析室ニュースで院長先生のアドバイスを読んだり、日本透析療法学会の先生方の講演会を聞いたりするたびに、水分摂取や食事管理の大切さを改めて痛感し反省しています。

進歩した透析医療のおかげで、透析日以外の日は毎日楽しく生活できています。家の中に閉じこもらず、外の空気、風、小鳥のさえずり、花など私の大好きなその時々の日本の四季を、十分味わいたいと思います。遠くまで出かけなくても身近な所に菜の花や梅の花が咲いていたり、また「今年は例年より早く高知で桜の開花宣言」などといったことを聞くととても楽しくなります。

三月初旬、西条まで梅を見に出かけました。紅梅、白梅が小雨の中静かに咲き誇り、その美しさに心が落ち着きました。私は、陽気な気分になれる桜も好きですが、梅それも特に白梅が好きです。

自分一人で生きているのではないということを知り、院長先生を始めスタッフの方々、私達の先輩の方々のご尽力、そして私が落ち込み悩んでいる時に励まし助けてくれる周囲の方々や家族、こうした大勢の人たちに支えられて今日があることをいつも感謝し、これからも頑張っていきたいと思います。

 

「栄養室より」管理栄養士 高石 美由紀

お刺身のある献立
エネルギー 705 kcal
蛋白    21.5 g
カリウム  664 mg
リン    279 mg
塩分    1.1 g

当院では、いろいろな食事制限がある中でいかに安心しておいしく食事を楽しんでいただけるかと考えながら、スタッフ一同力を合わせて患者様の食事作りに取り組んでいます。

昨年11月より、いつもと違った雰囲気で食事を味わっていただくために、月に1回お重の献立の日を取り入れました。

 

唐揚げのある献立
エネルギー 648 kcal
蛋白    20.0 g
カリウム  791 mg
リン    264 mg
塩分    1.4 g

「食事制限があるから食べられるものがない」と思う気持ちから「何をどれくらい どう料理して食べたら大丈夫なんだ」ということがご納得いただけるような食事をこれからも心を込めて作っていきたいと思っています。