講演会

開催日 2013年2月17日
講師 医療法人川島会 川島病院 院長 水口 潤先生
演題 「元気で長生きをしましょう!!」

30年前,透析についての議論が2通りありました.
① 塩分水分管理,蛋白制限をしっかりし,週2回の透析で管理できる.
② 食事制限は緩め,その分,透析回数や透析時間を多くする.
長い目でみてみると,結果的には②のちゃんと食べてしっかり透析をする方が長生きできることが分かりました.

長生きをするための透析医療(七ヶ条)

元気で長生きをするためには

1,栄養をとりましょう.

食事管理は大切ですが,栄養失調にならないようにしっかり栄養はとらないといけません.
川島病院における462名の患者さんの7年間の生存率ついて調べたデータでも,総蛋白,アルブミンが高いほど長生きできています.また,透析がしっかりできていて透析前の尿素窒素が80程度の人が一番長生きし,あまり低すぎる人は長生きできません.
尿素窒素は蛋白質が分解されたものですから,尿素窒素が高いというのは蛋白質が食事で十分とれているということです.ただし,透析前の尿素窒素が100近くまで上がると少し生存率が下がりますので,食べ過ぎもよくありません.蛋白摂取量にも適量というものがあります.
蛋白   : 1.0~1.2g/体重1㎏
エネルギー: 27~39Kcal/体重1㎏
栄養士さんと相談して,こういう食事を実践していただきたいと思います.

2,十分な透析をしましょう.

クリアランス(毒素がどれだけ抜けるか)でみた場合,週3回の透析は腎臓の1割程度の能力しかありません.体調が悪いのは尿毒素がたまるからで,十分透析をしてしっかり毒素を抜くことが大事です.
川島病院においてKT/Vやクリアスペース率という毒素がどれくらい抜けたかという指標でみても,やはりそれらの値が高いほど,すなわち毒素をよく抜くほど生存率が高いという結果になっています.

川島病院グループにおける腎代替療法の内訳(2011年6月末)
血液透析       836名
オフラインHDF     13名
オンラインHDF     42名(2013年2月現在は100人程度)
リクセル血液透析   10名
腹膜透析       70名
腹膜透析+血液透析   3名
腎移植        27名(年間2~5例実施,2013年2月現在35名)

全国と川島病院の粗死亡率の推移
全国平均の粗死亡率は10%程度で推移していますが,川島病院では6%前後と低い粗死亡率を維持していて,それを誇りに思っています.

川島病院グループの血液透析条件
血流量  : 平均250ml/min (200-350)
抗凝固剤 : ヘパリン3,000~4,000単位
透析時間 : 4時間(4時間以上)
透析膜  : Ⅳ型,Ⅴ型 1.8㎡以上の面積
透析液  : 超純水透析液
細菌数0.1CFU/ml 未満
エンドトキシン0.001EU/ml未満

血流量を多くとることは毒素を多く抜くうえで重要です.川島病院では年齢に関係なく250ml/minの血流量から始めています.シャントには500~1000 ml/minの血液が流れているので,血流量を上げてもシャントが傷むとか心臓に負担がかかるということはありません.だから,許す限り血流量を上げることが毒素を十分とり除く秘訣です.
ダイアライザーはⅣ型・Ⅴ型の高性能膜で,1.8㎡以上の面積のものを使用しています.1.5㎡のダイアライザーも1種類だけありますが,使用している患者さんはごくわずかです.また,透析中は120Lもの透析液が薄い透析膜を介して血液と接しますので,体に直接入ってなんの影響もないレベルに清浄化された超純水透析液を使用しています.

透析医学会のガイドライン
① 透析条件
・超純水透析液基準
・血液量200ml/min以上
・透析液流量500ml/min以上
・super high-flux膜ダイアライザーを使用
・週3回4時間以上の血液透析
② 治療目標
・最大間隔透析前β2‐MG濃度が30㎎/L未満(推奨)
・最大間隔透析前β2‐MG濃度25㎎/L以下(目標)
・β2‐MG以上の物質除去により予後が改善する可能性がある
(オピニオン)

3,運動をし体力をつけましょう.

体力をつけないとインフルエンザなどの感染に弱くなります.できるだけ運動して体力をつけましょう.
川島病院におけるデータでも透析前の血清クレアチニンやクレアチニンINDEX(%クレアチニン産生速度)が高いほど生存率が高まり,低くなると生存率は下がります.クレアチニンは筋肉から出てくるもので,筋肉量が多いほど血清クレアチニン,クレアチニンINDEXが高くなります.筋肉量が少ないほど体力が低いことになります.そういうわけで,長生きのために運動をして筋肉をつけ体力をつけることが大事です.歩数にして1日6,000~7,000歩程度歩くようにしましょう.

4,血圧管理をしましょう.

血圧が高い人は,心不全や脳卒中を起こしやすく,血圧が高いほど1年生存に与えるリスク(危険度)が高くなりますので血圧管理はとても大事です.最高血圧で140mmHg以下に維持しましょう.
塩分摂取量が多いと血圧が上がる傾向はあります。しかし,現在の塩分摂取量の基準である体重にかかわらず1日6gというのでは十分な食事量がとれない人も出てくるので,体重を勘案した塩分摂取量の基準ができる予定になっています.川島病院においても1日の塩分摂取量が6g未満の患者さんの割合は少なく,十分食事がとれていれば8g以内の塩分摂取量であればいいのではないかと考えています.

透析医学会ガイドライン
① 週初めの透析前血圧で140/90mmHg未満とする (オピニオン)
② 目標血圧の達成にはドライウェイト(DW)の適正な設定が最も重要である
③ DWの達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を使用する

5,リンの値を下げましょう.

リンが高いと動脈硬化(血管の石灰化)がおきて血管がつまります.心筋梗塞をおこしたり,足の血管がつまって足を切断しなければいけなくなることもあります.
透析医学会のガイドラインでは透析前の血清リンは3.5~6.0㎎/dlとなっています.これより高くても低くても死亡リスクが上がります.低くても死亡リスクが上がるのは,食事が十分とれてなくて栄養状態が悪いためです.
脈硬化(血管の石灰化)が一度おこってしまったらもう後戻りできません.だから,日々のリンのコントロールというのは長い目で見ると非常に大事なことです.

① 血清リン濃度の目標値 3.5~6.0㎎/dl
・タンパク質1gには15㎎のリンが含まれます.
・1回の透析で除去できるリンは1000㎎程度です.
一週間の
リンの摂取:15㎎×60(蛋白摂取)×7(日)×0.8(吸収率)=5040㎎
リンの除去:1000㎎×3(回)+ 150㎎(消化液)×7(日)  =4050㎎
このように,十分な栄養摂取(蛋白摂取)を行うとどうしても1週間で1000mg程度のリンがたまりますので,リン吸着薬が必要となります。
② CaやPTHは先生に任せましょう.

 

6,貧血を治しましょう.

貧血があると心臓に負担がかかります.エリスロポエチン(ESA製剤)が使われるようになって心不全での死亡率が減ってきました.
ESA療法の目標Hb値および投与開始基準
・複数回の検査でHb値10g/dl未満となった時点
・目標Hb値は,週初めの透析前の値でHb値10~11g/dl
・活動性の高い比較的若年者では目標Hb値11~12g/dl
エリスロポエチンの反応性が低下している時は,鉄欠乏,炎症,低栄養,透析不足,副甲状腺機能亢進症,悪性腫瘍などが考えられます.

7,ガン検診をうけましょう.

透析患者さんは一般の人に比べて癌の発生率が高いのでガン検診をちゃんと受けましょう.
透析患者さんの悪性腫瘍
・日本での報告では非透析者に比較し男性で1.9~2.6倍,女性で3~4倍
・腎不全による発癌物質の蓄積,細胞性免疫能の低下が原因
・透析療法開始し1年以内に発見されることが多い
(これは透析を受けるようになって定期的なガン検診を受けるため)
・好発臓器は胃(27.1%),腎臓(10.%),肝臓(8.6%),肺(7.9%),腸(7.6%)
① 年1回のガン検診
胸部X線,腹部CT,胃内視鏡,便ヘモグロビン(大腸)
前立腺がん,乳がん,子宮がん
② 腎癌の発生率は1/245人年(1年間に245人に1人)と高率
腎癌のスクリーニングは,その発生率の高さから早期発見,治療により予後の改善が期待でき,腹部超音波検査,CTによる定期的スクリーニングが有益です。

以上の長生き七ヶ条を実践して元気で長生きをしましょう.

 

 

腹膜透析を行うという選択

腹膜透析は,若い人にとっては社会復帰がしやすい,また通院が困難な高齢者の患者さんにとっては在宅あるいは老人施設でもできるというメリットがあります.しかし,腹膜透析に関する情報提供の不足もあり普及率は低く,慢性透析治療の3.3%(約1万人)となっています。
中国・四国地方における腹膜透析の普及率をみると,一番普及率が高いのは香川県で9.4%,次が徳島県で7.6%となっています.愛媛県は4.5%と全国平均よりは高い普及率となっています.
腹膜透析を普及させるために,徳島県では基幹施設とそれをとりまく協力施設が一体となり腹膜透析患者さんのケアを行う徳島腹膜透析ネットワークがつくられています.導入・コンディショニング・合併症治療は基幹病院で行い,普段の医療は協力施設で行います.
川島病院における腹膜透析療法の方針は“Simple is the best !”,いかに単純にして簡単な操作でどこの施設でもできる当たり前の治療にしようということでオープン入浴・オープンシャワー・出口部ケアなし(保護なし)・簡便接続チューブ交換・管理手帳廃止などを行っています.

腎移植を受けるという選択

日本では年間1,500人くらいが腎移植を受けています.献腎移植も少しずつ増えてきています.
日本では腎移植の比率が非常に少ないのが現状ですが,患者さんの腎移植希望の対する調査でも移植を希望するという人が減少してきています.
腎移植希望者の減少の原因
① 透析技術の向上
② 腎移植に対するマイナスイメージ
(移植腎がだめになった人が透析施設に戻ってくる)
③ 腎移植後の経済的負担の増加
④ 献腎移植登録の意欲低下(登録してもなかなか順番がこない)
⑤ 腎移植に対する説明がされていない
腎移植では免疫抑制剤の進歩により,拒絶反応はほとんどなくなり10年でも8~9割が生着するようになっています.川島病院においてもこの10年間拒絶反応は経験していません.
腎移植によって血液透析を続けるより死亡リスクが下がり寿命が長くなると同時にQOL(生活の質)が有意に高くなります.
透析療法を余儀なくされている若い世代の腎不全患者さんが,生涯にわたり健常者と同じように元気に過ごすことは,現在の血液浄化技術では困難です.より良い血液浄化技術の開発はもちろんですが,健常者と変わらない生活を取り戻すためには,より多くの患者さんに腎移植を受けていただきたいと思います.