講演会

開催日 2002年1月20日
講師 昭和大学横浜市北部病院 内科助教授 衣笠 えり子先生
演題 「透析患者さんの骨病変について」

長生きするコツは?

十分な透析を受ける
透析時間を長くとる
良好な栄養を保つ
十分な体格を維持する
体重増加は基礎体重の5%以内に
禁煙、塩分制限
リンに注意
炎症にかからない

長期透析患者にみられる合併症

1. 心不全(透析心)
2.  動脈硬化(脳血管障害、末梢血管障害、狭心症など)
3.  腎性貧血
4.  透析骨症(腎性骨異栄養症)

カルシウム吸収に必要な活性型ビタミンDが、腎臓でつくられないため、血液中のカルシウムが低下してくることや、リンが腎臓から排泄されないため、血液中のリンが高くなることが引き金になり骨が弱っていく。その代表的なものが二次性副甲状腺機能亢進症である。

5.   透析アミロイド症

通常の透析では除去しにくいベータ2ミクログロブリンという物質が体の中にたまり、これが変化してアミロイドというものになり、全身のいろいろなところに沈着する。(透析を10年以上している患者さんに多い)
透析アミロイド症の症状として、まず最初に出てくる症状は、手根管症候群である。これは、手の付け根にある手根管というトンネルの中にアミロイドが沈着して、トンネルの中を走っている神経を圧迫することによって起こる症状。

透析アミロイド症の予防と治療

①ベータ2ミクログロブリンの除去
アミロイドのもとになるベータ2ミクログロブリンを血液中より積極的に取り除く。(高性能膜による透析、on-line HDF、リクセル)

②ベータ2ミクログロブリンの変性抑制
変性したベータ2ミクログロブリンがアミロイドとなって沈着するので、ベータ2ミクログロブリンが変性するのを抑える。(高生体適合性膜、ビタミンE付加膜、抗酸化薬)

③透析液の浄化
透析液に含まれる不純物(たとえば、細菌が出した毒素であるエンドトキシンなど)が、透析アミロイド症を促進するといわれているため、透析液をきれいにすることが重要である。

6.その他の合併症

免疫低下
かゆみ
腹膜炎、硬化性被嚢性腹膜(CAPDの患者さんにおいて)
栄養障害、性機能障害

 

二次性副甲状腺機能亢進症について

低カルシウム血症や高リン血症が原因となって副甲状腺ホルモン(PTH)がたくさん分泌され続ける病気を、二次性副甲状腺機能亢進症という。この病気が長く続くと骨はどんどん溶けていきもろくなる。

副甲状腺機能亢進症の症状

① 骨折
骨が薄くもろくなってくるため、ちょっとしたことでも骨折する。

② 骨痛・関節痛
腰、股関節、膝、足首、かかとなどが歩行時(とくに歩行開始時)痛い。

③ 腱の骨からのはく離(腱断裂)

④ 異所性石灰化
いろいろなところ、たとえば、関節の周りや血管壁などに石灰沈着がおきる。

⑤ 末梢循環障害
血管での異所性石灰化により、動脈硬化が促進され血液の流れが悪くなり、とくに足の先などの末梢循環が悪くなる。

⑥ 心筋障害
透析心(心筋が弱くなり心臓が肥大する)の原因の一つといわれている。

⑦ 貧血
副甲状腺ホルモン(PTH)が高いと、エリスロポエチンの反応性が低下する。

そのほか、神経症状・免疫低下・動脈硬化・性機能低下などの症状が出ることがある。

 

二次性副甲状腺機能亢進症の予防と治療には、リンをためないことが重要である。

 

透析骨症(腎性骨異栄養症)の新しい治療

①活性型ビタミンD製剤(静注、経口) ⇒ オキサロールやロカルトロールの静注は、今までの経口のビタミンD製剤(ワンアルファ、カルシタミン)よりPTH分泌を抑える効果が高い。

②新しいリン吸着剤(非カルシウム、非アルミニウム) ⇒ 治験が終わっているので、来年ぐらいには新しいリンを下げる薬がでてくる。血液中のカルシウムを上げずにリンを下げる薬である。

③カルシウム擬似薬 ⇒ 新しいメカニズムで副甲状腺ホルモンを下げる新しい薬が、5・6年先にはでてくる。

④経皮的副甲状腺内エタノール注入法(PEIT) ⇒ 腫大した副甲状腺にエタノールを注入し、その腺組織を壊死に陥らせてPTHの分泌を抑制する方法。

 

透析療法は、患者さんには水の制限、リンの制限、カリウムの制限などいろいろ御苦労を強いる治療であるが、健康な人と変わらない社会生活をおくっていくためにもできる限りの自己管理に努めて、頑張って長生きしていただきたいと思います。