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長生きのために

当院玄関に展示されている「小菊の木付け盆栽」
作者:福田政義様〔四国中央市)
撮影:平成16年11月6日

このところたび重なる台風の上陸、それに追い討ちをかけるような中越地震などと日本列島をたてつづけに厳しい災害が襲って参りました。これら自然災害は予期することもできず防ぎようのない部分がございます。しかし、これとても日頃よりの官民一体となった災害への備えをしておけば少しでも被害を少なくすることができるかもしれません。
話は変わりますが、透析における合併症もこれにやや似た部分があるような気がしてなりません。いや合併症は災害よりはもっと防ぎやすいと思われます。透析アミロイドーシス、二次性副甲状腺機能亢進症、肺水腫、心臓病など重篤で一見どうしょうもない病気にみえるこれらの疾患も、日頃より十分な透析をして各種データをきちんと正常範囲にコントロールして備えておけばある程度防ぎうるものなのです。
前回の水分管理に続いて、今回は合併症の大きな原因となるリン(P)の問題について考えてみましょう。

理事長 溝渕 正行

 

リンが高いとなぜ悪い?

リンについては、血液検査の結果を皆様も関心を持ってみられてるでしょうし、値が高いと「回診時にまた注意される」とゆううつになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「リンが高いとなぜ悪いのか」ということを理解していただくと、繰り返し注意されることにも納得していただけるのではないかと思いますので、今回は血液中でリンが高くなることによる危険性、すなわち「高リン血症の危険性」について話を進めていきます。

最初から結論を申しますと、高リン血症は透析患者さんに二つの悪いことを起こします。一つは、「二次性副甲状腺機能亢進症」、もう一つは「血管の石灰化」です。

まず、「二次性副甲状腺機能亢進症」について、重要な部分だけをまとめてみます。ここで、二次性というのは腎臓が悪いため、これにひきつづいて発症したという意味です。
副甲状腺は上皮小体ともいわれ、首のところにある甲状腺の裏の上下に4個ついています。甲状腺にくっついているので副甲状腺と名前がつけられていますが、まったく別のホルモンを出す臓器です。副甲状腺から出るホルモンを副甲状腺ホルモン(PTH)といいます。副甲状腺は、この副甲状腺ホルモンを分泌することによって血液中のカルシウムとリンのコントロールをしています。いわば、副甲状腺はカルシウムとリンの代謝の司令塔です。

しかし、血液中のリンが高くなると、副甲状腺が腫れて大きくなり副甲状腺ホルモン(PTH)を必要以上に分泌するようになります。これを副甲状腺ホルモンが出すぎる状態、すなわち副甲状腺の働きが亢進した病態ということで「副甲状腺機能亢進症」といいます。

副甲状腺機能亢進症になると、過剰に分泌された副甲状腺ホルモンによって骨がどんどん溶けていきます。骨が溶けてスカスカになると、もろくなり骨折しやすくなりますし、体中あちこちの骨や関節が痛くなってきます。また、いらいら感やかゆみが出ることもあります。このようなことから、副甲状腺機能亢進症は透析患者さんの日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)を著しく損なう合併症と言えます。

しかし、副甲状腺機能亢進症の怖さは、骨や関節の痛みだけではありません。過剰な副甲状腺ホルモンによって骨から溶け出したリンとカルシウムが結合して石灰となり、関節の周囲や血管など正常では石灰などないところにつきます。これを「異所性石灰化」といいますが、特に血管壁へ石灰がつくことが大きな問題で、最近特に重要視されています。これについては次の話の中でもう少し詳しく説明したいと思います。ここまで、高リン血症によって副甲状腺機能亢進症が起き、それによって「異所性石灰化」が起こると説明しましたが、実は、副甲状腺機能亢進症が起きていなくても高リン血症であるというだけで「異所性石灰化」は起きています。高リン血症、すなわち血液中のリンが高いと、その多すぎるリンが血液中のカルシウムとくっついて体のあちこちに沈着する(くっつく)のです。

「異所性石灰化」で一番問題になるのは先ほども言いましたとおり血管壁の異所性石灰化です。血管壁への異所性石灰化、すなわち血管の石灰化は透析患者さんにおける動脈硬化の重大な危険因子です。血管石灰化による動脈硬化によって心筋梗塞、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害が非常に起きやすくなります。さらに、心筋や心臓弁の異所性石灰化は透析患者さんの心臓の働きの低下の原因のひとつにもなっています。

表は、日本透析医学会統計調査委員会による透析者の死因です。死因のうち心不全、脳血管障害、心筋梗塞といった心血管系疾患が41・9%を占めています。このように透析を受けられている方は、心血管系の病気で亡くなることが非常に多いのです。そしてここまでの話で、その死因となる心血管疾患の原因として、高リン血症による血管石灰化(=動脈硬化)が密接に関係していることもご理解いただけたと思います。

さらに、日本透析医学会統計調査委員会による「透析前血清リンと一年間の死亡リスク」に関する報告によると、リンの値は4.0~5.0mg/dlの間が一番死亡リスク(危険度)が低く、それ以上リンが高くなると死亡リスク(危険度)が高くなっています。この解析結果から透析前血清リンは4.0~6.0mg/dlを目標コントロールするのが最も良いことが分かっています。なお、異所性石灰化の危険性を考慮すると血清リンは5.5mg/dl以下でコントロールするのが理想と言われています。

リンはカリウムと違って、高くても直ちに生命に危険があるというものではありませんが、後になって必ず体に大きなダメージを与えます。リンをコントロールすることは心臓や血管を守るために非常に重要なことで、それが長生きにつながるということをご理解いただき、リンにはくれぐれも注意してください。

 

相次ぐ「スギヒラタケ」急性脳症

スギヒラタケは、キシメジ科のキノコ。人工栽培は行われておらず、
秋にスギやアカマツなど針葉樹の切り株、倒木に多数が重なり合って自生する。
色は白く直径2―6センチ。北陸、中部、東北地方を中心に山で採られ食べられている。
地方によってスギカノカ、スギカヌカ、スギモダシ、スギミミ、スギナバなどの呼び名もある。

腎障害の患者さん(人工透析患者、保存期の腎不全患者)で食用キノコのスギヒラタケを食べた人に急性脳症が多発しています。11月2日現在で秋田、新潟など8県で50人が発症し、うち14名が亡くなりました。

厚生労働省は4日までに、スギヒラタケの成分分析や、患者の血液などの検体検査、生活習慣と病気の関係を調べる疫学調査などの、総合的な研究態勢を敷きましたが、現時点では依然原因不明です。同省では、感染症の可能性もあるとして、各県とともに患者や死者の血液、脳髄液を調べていますが、これまでに、細菌やウイルスの存在を示す検査結果は出ていません。さらに同じ地域で、昨年と7年前にもスギヒラタケを食べた腎臓病患者が急性脳症となり、1人死亡していたことが、日本腎臓学会の緊急調査で5日明らかになりました。また、このキノコが今年は豊作で例年より大きなものも目立っていたことなどから、豊作による消費量の増加か、キノコの中の悪い成分が増えたのか、どちらかの理由で人体に悪影響を及ぼす量を超えたと推測されています。

このようなことから、スギヒラタケの成分に急性脳症を起こす原因物質があり、それが腎障害のため排泄されず急性脳症を発症したという見方が強まっています。

原因が分かるまで、スギヒラタケは絶対食べないでください。

 

ビタミン強化米について

当院の食事にはビタミン強化米「新玄」(武田食品)を使用しています。
「新玄」は、ビタミンB1など8種類のビタミン(主にビタミンB群)、ミネラルを含み精白米に混ぜるだけでほぼ玄米レベルの栄養素を回復します。

ビタミンB群のうち代表的なものは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12です。透析患者様では、透析によって除去されたり、食事制限により必要量を摂取できていないなどの理由で、血液中のビタミンBが不足している人が多いという報告があります。

ビタミンBは、エネルギー供給や老廃物の代謝に重要な役割を担っている栄養素で「元気の素」になるビタミンです。ビタミンBが不足すると、疲労感・肩こり・神経痛・関節炎といった症状や、いらいら・神経質・不安・うつなどの精神症状、食欲不振・消化不良・便秘などの消化器症状、口内炎や皮膚炎が出ることがあります。