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透析と水とは切っても切れない間柄です。患者さんにとっては、体重(水)がどれだけ増えたか、透析で水がどれだけ抜けたかが最大の関心事だと思います。一方、病院側にとりましても透析中の除水管理は重要な仕事ですが、それにもまして透析液(水)の安定供給は、基本的なことですが、最も重要なことです。たとえば、5時間透析で1人当たり150リットルの透析液が必要ですし、洗浄消毒などの水を含めると透析室全体としては、ものすごく多量の水が必要です。とにかく、透析と水とは深い間柄で長い付き合いをしていかなければなりません。

ここで、話は本題に入りますが、近年透析液の「清浄化」ということが、非常に重要な話題になってきているのをご存知ですか?透析液の清浄化とはどういうことなのか、簡単に説明してみましょう。

1985年に、長期透析における重大な合併症である透析アミロイド症やその代表的な症状である手根管症候群の原因物質が、ベータ2ミクログロブリンであることが判明しました。しかし、ベータ2ミクログロブリンは分子量のとても大きな物質で従来の透析膜ではほとんど除去されないため、これを抜こうとして、その後透析膜に開いている穴の大きさを大きくするようになりました。これがいわゆる高性能膜(ハイパフォーマンス・メンブレン)といわれるものです。もちろん、大きな穴といっても血液中の重要な成分である赤血球や血清蛋白などは、とても抜けることはできない程度の大きさの穴です。

この高性能膜が使われると、種々の今まで除去できなかった大きな分子量の毒素が、血液中から透析液側に抜ける代わりに、透析液側からそれらと同じ大きさの不純物質も、血液中に混入してくることができるようになるわけです。このため透析液中の不純物質をなくしてしまおうというのが、透析液の清浄化ということなのです。

不純物質の代表は、エンドトキシンと呼ばれているもので、細菌が出した毒素のことなのですが、これが生体内に侵入するとさまざまな炎症反応(発熱・血圧低下など)をおこします。また、エンドトキシンの侵入が、ベータ2ミクログロブリンの体内蓄積を助長し、透析アミロイド症を起こす原因の一つであるといわれています。皮肉な話ですが、結局のところエンドトキシンで汚染された透析液ではいくら高性能膜でベータ2ミクログロブリンを抜いても、透析アミロイド症の予防も治療もあまり期待できないということになります。さらに、1回の透析で透析液は120~150リットルも使用しますし、しかもこれを年に150回以上も繰り返すわけですから、透析液の清浄化は非常に大切なことなのです。また、最近の高性能ダイアライザーでは、透析中に5L以上の逆濾過が起きているという報告もあり、ますます高純度の透析液でなければいけなくなってきています。

逆濾過
ダイアライザーの動脈側では、血液中の水が透析液側に濾過され出て行きますが、ダイアライザーの静脈側では透析液から血液中に水が流入する現象がおきます。それを逆濾過といいます。

実際、清浄化された高純度透析液で透析を行うと、血液中のベータ2ミクログロブリンの濃度が低下してくることや炎症反応の指標である血清CRPやサイトカインの濃度が低下することが明らかになってきました。また、貧血改善や血清アルブミン値の上昇といった効果も認められています。このようなことから、透析治療の質的向上のためには、透析液の清浄化が不可欠なものとなっています。そしてそれが透析患者さんのQOL(生活の質)の向上につながることは間違いありません。

では、すべての透析施設で透析液の清浄化が行われているのでしょうか。

実は、透析液の水質の改善は、法的に強制されたものではありませんので、施設間での格差が非常に大きく問題となっています。その原因は、まず第1に清浄化にかかる費用は保険では認められておらず施設の負担であり、その改善費にかなり多額の費用がかかるという点が考えられます。

【付記】
これについては、平成22年度診療報酬改定で「透析液水質確保加算」が新設されました。
透析液水質確保加算
「人工腎臓における合併症防止の観点から、使用する透析液についてより厳しい水質基準が求められている。こうした基準を満たした透析液を使用していることに対する評価を新設する。」
[算定要件]
①月1回以上水質検査を実施し、関連学会の定める「透析液水質基準」を満たした透析液を常に使用していること。
②専任の透析液安全管理者1名(医師又は臨床工学技士)を配置していること。
③透析機器安全管理委員会を設置していること。

第2点として、短期間では水質の影響がそれほど目立たないという点です。透析液の水質の差による影響がでるのは、ある程度の期間を要するため、危機意識を持ちにくいということが考えられます。

当院では、他施設に先駆けてこのエンドトキシン問題に着目し、透析液中のエンドトキシン低減対策を続け、また定期的にエンドトキシン検査を行い監視してきました。。日本透析医学会による透析液中のエンドトキシン濃度基準は、50EU/L以下ですが、当院における末端コンソールでのエンドトキシン濃度は、検出感度以下に保たれています。

透析液清浄化は、透析療法における基本であるという認識を持ち、すべての透析施設が取り組むべき重要課題なのです。